第8話 鷹狩り
「実際に鷹を見せてください」
僕は鷹匠に頼んだ。
「何羽か連れてくればよろしいですか?」
「いえ、鷹のいる小屋に連れて行ってください。僕は鷹のことを知らないから」
鷹匠は視線を鋭く変えた。
「私が連れてくる鷹を信用できませんか?」
「いえ、僕が鷹を知りたいんです。お願いします」
鷹匠は頭を掻いた。
「鷹を知りたがってくれるのは嬉しいです。でも、鳥小屋はお貴族様の来るところじゃありません。細かい毛羽で汚れますし、フンが臭います」
「構いません。お願いします」
「いや、でも」
「お願いします」
そうして、僕は今、鳥小屋の前にいる。
「ここにいる鳥はみんな鷹ですか?」
「細かい種類の違いはありますが、鷹で問題ありません。グレイ様は鷹狩りが初めてと聞きましたので、ハヤブサが良いかと思います。何羽か連れてきましょう」
鷹匠はある小屋の中に入って行った。
僕は小屋全体を見る。
その中から、大きく、静かで、こちらをうかがう視線を感じた。僕はその視線の先の小屋に近づく。
大きな鳥が、小屋の中に渡された太い枝にとまっている。
僕はその鳥をよく見た。その鳥も僕を見ている。
その瞳が僕を射抜いている。
鷹匠は籠を三つ持ってきた。
「こちらのハヤブサが良いと思います」
「あちらの鳥はどうですか?」
僕は目があった鳥から視線を外さない。
「あれは調教に失敗したクマタカです。体が大きいからでしょうか、気が強く、言うことを聞かないのです」
「あのクマタカはどうなりますか?」
「あの体格ですからね。観賞用に売ろうと思っています」
「もう、飛ぶことはないのですか?」
「はい、ありません」
僕はクマタカを見る。大きく立派な翼だった。それが僕を見ている。もちろん、鳥の気持ちなんてわからない。ただ、この鳥に愛着を感じた。
「この鳥で鷹狩りに出たいです」
「このクマタカですか! いや、これは難しいのです」
「お願いします。試させてください」
僕は無理を言って、それを通した。
小屋を出たクマタカは、真っ直ぐに僕に向かってきた。
そして、僕がつけている鷹匠小手に止まった。
クマタカは僕の腕から離れない。
「いや、これはこれは、グレイ様、鷹狩りは初めてなのですよね」
「はい。初めてです」
その時、クマタカが飛び立った。
飛んだ先、空にはハトがいた。
クマタカは素早くハトの上まで飛び、それを蹴った。
ハトが僕の目の前に落ちてきた。蹴りの一撃でやられたようだった。
クマタカはハトを食べることなく、僕の小手に戻ってきた。
「いやはや、これはまた……」
鷹匠は驚いて、僕とクマタカを見つめた。
「これは鷹狩りではありません。クマタカが指示なく獲物を得、それに固執することなく、小手に戻るなど、聞いたことがありません」
僕はクマタカの重みを感じる。苦ではなかった。
「餌はありますか?」
僕が質問すると、鷹匠は肉の入った籠を持ってきた。
「ありがとう。さあ、食べてください」
僕は肉を一切れとり、与えた。
「このクマタカは、オスですか、メスですか」
「はい、メスです」
僕は考える。
「クマタカ、君の名前はカミスだ。どうだろうか」
もちろん、クマタカは返事をしない。ただ、その名を受けていた。
「よろしく頼むよ。カミス」
僕は初めて名前をつけた。
僕は続いて馬小屋に向かう。乗馬の訓練をしなければいけない。僕はまだ一人で馬に乗れなかった。
僕は馬小屋を見つめる。カミスと同じように、馬の心を探る。
一頭、気になる馬がいた。
調教師が馬を連れてくる。
「その馬ではなく、あちらの馬でお願いします」
僕は馬を指差す。
「あれは若く、調教を終えたばかりです」
「終えているのですね。では、お願いします」
僕はその馬を出してもらい、乗馬のための鞍などをつけてもらってから、馬の手綱を手に取る。
僕はすぐに馬に乗らず、馬のタイミングを待つ。少しして、馬の弾みが伝わってきた。
僕はその拍子に合わせて、あぶみに力を込め、またがる。
乗れた。乗ってしまえば、なんと言うこともなかった。
「うん、この馬にします」
「ふむ、大丈夫なようですな。わかりました。支度いたします」
「名前はなんと言いますか?」
僕は馬小屋にかけられた板を見る。まだ、名前が読めなかった。
「アルト号と言います」
「よろしく、アルト号」
その時、サタナリア教官がやってきた。
「なんだ、もう乗っているのか」
サタナリア教官は、僕に耳を向けた。
「鷹はどうなった?」
「そちらも決まりました。カミスと名付けました」
サタナリア教官の耳が左右に開かれた。
翌日、カミスを連れ、アルト号に乗って、王宮の中庭に向かった。
アントワネットさんが僕たちを見つめる。
「グレイ、その鷹は何? なんでそんなに大きいの!」
アントワネットさんは少し興奮した感じだった。鷹が好きなのかな?
「はい。カミスはクマタカという種類の鷹です。なので、大きいのです」
「クマタカ……それにしても大きすぎるわよ。キチンと狩りができるんでしょうね」
カミスが翼を広げる。圧倒的な大きさ。少し背の高い僕が、両手を広げたより長い。
アントワネットさんがカミスの迫力のためか、二、三歩、後ろにたじろぐ。
「やっぱり大きすぎるわよ!」
アントワネットさんは、僕の腕を見た。
王様とアントワネットさんと女たち、何人もの貴族。騎士のプレスナさんたち。鷹匠。使用人。朝から大勢で出発して、丘まで向かう。
そして、貴族たちが鷹匠から鷹を受け取り、馬を走らせて、獲物を探す。
ノウサギや小鳥などの獲物を見つけた貴族たちは、鷹を放ち、獲物を狩らせる。
そして、狩った獲物の場所まで鷹匠が走り、回収する。
それが鷹狩り。
でも、僕とカミスの狩りは違っていた。
僕はカミスを空に放つ。
カミスは高空から獲物を探す。
そして獲物を見つけると、急降下して、その強力な足で蹴る。
そして、倒した獲物であるノウサギを足で握り、僕の元に帰ってくる。
他の鷹と狩り方は違うけれども、確実に獲物を得ることができた。
カミスから獲物を受け取り、もう一度空へ放つ、そして僕は、アントワネットさんたちが傘を開いて休憩する場所に、獲物を運んだ。
「グレイ、あなた、どこでそんな鷹狩りを覚えたの?」
アントワネットさんは、目を大きく開いて、僕を見た。
「カミス、僕の鷹が良いんです。カミスと出会えて幸運でした」
「そう、そうよね。あなたがすごいんじゃないわ。そのカミスがすごいのよ」
「はい、その通りです」
けれども、アントワネットさんは僕をずっと見ていた。
カミスは狩りが上手だった。僕に、次々とキジバトやノウサギを足で持って、運んできてくれる。
僕はカミスに餌を与える。カミスは誇らしそうだったけど、さすがにそれは僕の勘違いだろう。
そんな時だった。カミスが森の方から帰ってこない。
僕はアルト号に乗ってすぐに向かう。鷹匠が、僕を止める声が聞こえた気がしたけれど、カミスの様子が気になった。
森の中に駆け込み、しばらく進む。すると、湖が見えた。
「カミス! どこにいる!」
僕は周囲を探す。「ピーッ」という声が聞こえた。
そちらに向かうと、カミスが鹿のそばに立っていた。
カミスは獲物を運びきれず、困っていたようだった。
僕はアルト号から降りて、カミスに近づく。
その時、違和感に気付いた。
たくさんの足跡がある。
こんな森の中に? その足跡は、湖に続いているようだった。
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