第5話 戦乙女
「待たせたわね。状況はどうかしら?」
「ジャッキー様!あちらでアリアが相手を……軽装ですね……まさかその格好で戦場に立つつもりですか?」
現れたジャッキーはお世辞にも武装しているとは言えなかった。綺麗な金髪に黒の軍服は似合っているが、ギリギリまで丈が短いように見えるミニスカートだった。少なくとも、大きな双刃刀は浮いている。
「いつも通りよ。見てて頂戴」
そう言ったジャッキーは敵将に向かって歩いていく。
「アリア、もう十分よ。あとは私が片付けるわ」
「いつも通り速いわねぇ!そこでお願いがあるんだけど、あと三分粘らせてくれないかしら?もう一撃入れたいの!」
「舐めるな小娘共!」
敵将は憤っているようだ。そんなに隙だらけでは、自分よりも小さな相手に負けるだろうに。この敵将は、明らかに実戦が足りていないように見える。
「ええ、もちろんいいわよ。でも気をつけてね」
「心配ご無用!」
アリアの攻撃の勢いが増した。完全に読み切ったという顔だ。力だけの相手など、アリアの敵ではないのかもしれない。……僕に対人戦の知識は皆無なので全て素人意見だが。
「煩わしい!消えろ!」
敵将が叫んだ瞬間、様子が変わった。敵将の皮が剥げていき、身体が一回り大きくなる。戦闘形態へと変化したのだろう。魔族は普段の姿と戦闘形態が異なる。しかし、変身には相当の負荷がかかるようで、最後の切り札と言ったところの立ち位置にある現象だ。
「……は?」
コイツ馬鹿だ。自分から敵の拠点に来ては、1人に負けかけて最後の切り札を使っている。
「ジャッキー様の出番ありますかね……」
誰にも聞こえてないはずだが、一応ジャッキーから目を逸らした。
「グオォォォォ!」
敵将の咆哮が響く。知性まで失う系の戦闘形態らしい。凄くコイツの存在は罠な気がしてきた。
「コイツ……罠ですかね?」
「でも、ここから半径5キロ内の魔族じゃ1番魔力が多いわね……何がしたいのかしら?」
なぜ半径5キロ内もの範囲を把握しているのかという疑問もあるが、何より敵の不可解な動き程不安なものはない。
「あ!コイツ魔力弾飛ばしやがった……めんどくさい……」
アリアは手こずっているようだ。力の差を覆すには分析が必要だか、知性を失った敵将の攻撃は不規則で、分析が難しい。
「い゛っ……は?……何が……」
飛んできた。魔力弾が僕目掛けて。運良く死にはしなかったが、足に直撃して倒れ込む。
「目障りだ。弱いヤツから、殺す」
動けなくなった。もう一度飛んできたら終わりだ。
「ねえ、良くも私のノエルを傷つけてくれたわねぇ。覚悟はできてる?」
聞こえていないことにしておこう。ジャッキーの男になった覚えは無い。しかし、そんな冗談を言葉にはできない。ジャッキーの声から、その剣幕が伝わってきたから。
「私の名は、ジャッキー・ヴァルキリア・クラリス。冥土の土産にしなさい」
「クラリスだと……はっ……クラリスが男を作るなんて無理に決まっている。偽物だろう?」
ドンッと地面が揺れた。ジャッキーが地面を踏み切ったのだ。
「残念、本物よ。じゃあ、さようなら」
ジャッキーは敵将の耳元でそう囁いたあと、双刃刀で敵将の頭を貫いた。鎧ごと。
「……規格外だ」
そう呟いてしまった。彼女の強さは本物だ。軽装なのも、それで十分だからなのだろう。視界がぼやけてきた。ジャッキーを見上げる。誇らしげな横顔が見えた。意識があったのはそこまで。
「ノエル!……出血多量ね、すぐに医師の元に!」
僕はヴァルキリア領までジャッキーに担がれて行ったらしい。
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