第2話 村おこし

村役場の会議室。


ホワイトボードの中央に、


源三の字で大きく書かれていた。


『若者が来る村にする!!』


その下には、


『目標 人口二倍!!』


拓海が眺める。


「村長」


「なんじゃ」


「人口二倍って本気ですか」


「当たり前じゃ」


「今、四百八十二人ですよ」


「なら九百六十四人じゃな」


「計算の話じゃないです」


「最初から無理だと思ってどうする!」


「じゃあ一万人にします?」


「それは無理じゃろ」


「現実的なんですね」


「当たり前じゃ!」


会議室には十数人。


節子。


勝治。


学校の先生。


郵便局のおじさん。


その他、暇だった人。


そして、


なぜかひなた。


「お前、なんでおるんじゃ」


「呼ばれたから」


「誰に」


「節子さん」


全員が節子を見る。


「子どもの意見も必要でしょ」


ひなたが手を挙げた。


「村長」


「なんじゃ」


「会議ってお菓子出ないの?」


「遊びじゃないんじゃぞ!」


節子が袋を出した。


「あるよ」


「やった」


「節子!」



最初の議題は、


名産品開発。


源三が言った。


「やはり人を呼ぶには名物が必要じゃ」


拓海もうなずく。


「それ自体は間違ってないと思います」


「じゃろ?」


「問題は何を売るかです」


沈黙。


勝治が手を挙げた。


「大根」


ひなたが言った。


「また?」


「今年の大根は出来がええ」


「昨日も言ってたよ」


「昨日よりええ」


源三は顎に手を当てた。


「ただの大根では弱いな」


ホワイトボードに大きく書く。


『奇跡の大根』


全員が黙った。


ひなたが聞いた。


「何が奇跡なの?」


「……」


「ねえ」


「これから考える」


「奇跡って後から考えるんだ」


三日後。


村の入口に、


『奇跡の大根 販売中』


という旗が立った。


売れたのは七本。


うち五本は村人だった。


残り二本は、


道に迷って入ってきた夫婦が買った。


「奇跡、起きなかったね」


源三は腕を組んだ。


「二本売れた」


「七本だよ」


「外の人に二本じゃ」


「道に迷った人ね」


「来た理由など関係ない!」



次は、


ゆるキャラ。


大根に手足が生え、


太い眉毛がついた謎の生物を、


源三が描いてきた。


「かわいいじゃろ!」


ひなたが言った。


「夜道で会ったら走る」


「お前、走るの苦手じゃろ」


「これに追われたら走る」


拓海が絵を見る。


「口から出てるの何ですか?」


「葉っぱじゃ」


「葉っぱは上です」


源三は少し考えた。


「……魂じゃ」


「もっと怖くなりました」


名前は、


ダイコン太郎。


ひなたの提案は、


だいちゃん。


全員、


だいちゃんに投票した。


源三は自分の絵を裏返した。


「……次の議題じゃ」


「拗ねた」


「拗ねとらん!」



次はSNS。


源三が拓海を見る。


「バズらせろ」


「何をです?」


「村を」


「もう少し具体的にお願いします」


結局、


源三本人が、


若者に人気だという踊りを披露する動画を撮った。


翌日。


再生数、十七。


「十七人も見とるぞ!」


「村内から十二アクセスです」


「……」


「僕と節子さんと勝治さんと――」


「もういい!」


ひなたが画面を覗く。


「でも五人も知らない人が見てくれたんでしょ?」


「……そうじゃな」


「すごいじゃん」


源三の顔が明るくなる。


「そうか。やはりわしには――」


「低評価二個ついてる」


「誰じゃ!」


勝治だった。



それでも、


村おこしは続いた。


移住相談会。


空き家見学会。


婚活イベント。


農業体験。


星空観察会。


役場の予定表は、


どんどん黒くなった。


源三は毎日のように役場へ集まった。


拓海は資料を作った。


節子は料理を考えた。


勝治は畑を整えた。


みんな、


やる気だけはあった。


問題は、


やることが多すぎた。


ある朝。


ひなたが源三に聞いた。


「村長、明日のラジオ体操来る?」


「明日は空き家の掃除じゃ!」


「明後日は?」


「移住相談会!」


「その次」


「農業体験!」


ひなたが指を折る。


「いつ村長に戻るの?」


「ずっと村長じゃ!」


「最近、村で見ないから」


「村のために忙しいんじゃ!」


「村にいないのに?」


源三が止まった。


「……難しいこと言うな」


「簡単なことしか言ってないよ」



翌朝。


六時二十九分。


ひなたが公園へ来た。


勝治。


節子。


源三はいない。


「村長は?」


「移住相談会の準備じゃと」


「また?」


「人気者じゃな」


「誰に?」


「知らん」


六時三十分。


ラジオ体操が始まる。


いつもより、


少しだけ人が少なかった。


次の日。


節子がいなくなった。


その次の日。


先生がいなくなった。


拓海も来なくなった。


公園の人数は、


少しずつ減った。


それでも、


ひなたは来た。


ある日、


大学ノートを持ってきた。


表紙には、


『ラジオ体操 出席簿』


「何じゃ、それ」


「出席簿」


「誰の?」


「みんな」


「誰が頼んだ」


「私」


ひなたは勝治の名前の横に、


大きな丸をつけた。


「勝治じいちゃん、出席」


「当たり前じゃ」


「皆勤賞狙えるよ」


「何がもらえる」


「名誉」


「いらん」


「じゃあ大根」


「それなら狙う」


「自分で作ってるじゃん」



久しぶりに源三が来た朝。


ひなたはノートを開いた。


「六日欠席です」


「仕事じゃ!」


「はい、欠席」


「聞いとるか!」


「明日二回ね」


「なんでじゃ!」


「補習」


「ラジオ体操に補習なんかない!」


勝治が言った。


「二回やれ」


「お前まで!」


体操が終わる。


源三は時計を見る。


「まずい、会議じゃ!」


走っていく。


ひなたは、


その背中を見送った。


「忙しいね」


「そうじゃな」


勝治がラジオを片づける。


「帰るぞ」


「うん」


二人で歩き出す。


「待ってよ、十段」


「まだ八段じゃ!」


「そこはちゃんとしてるんだ」


朝の公園は、


ずいぶん広くなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る