7. 甘い言葉

「美津香!」


「えっなに?」

「『なに?』じゃないよ、聞いてた?」

美津香はあわてて愛実を見る。

「・・・ごめん」


愛実は飲みかけのコーヒーを口に含むと、小さく息をついた。

木漏れ日がテラス席を揺らしている。

周囲のテーブルでは楽しそうな笑い声が飛び交っていた。


「最近らしくないよ。」

「ごめん、怒ってる?」

「別にいいけどさー、なんかあるんでしょ?」

「あるにはある。」

「また、”宮路さん”?」

美津香は気まずそうに頷いた。


「何?ついに別れる?」

「そんなわけないじゃん!」

愛実は思わず周囲を見た。

何言ってんの。

不倫じゃん。


「ちょっと、ボリューム、落として。」

「・・・・・ごめん。」

前のめりだった身体が後ろに下がり、肩が前に出た。

美津香が一回り小さくなったように感じる。


「ごめん、そういうんじゃないんだけどさ、最近連絡くれないのとか気になってきて・・」

「まぁ、そういう人じゃん。」

「そうなんだけど、次いつー?とか聞いちゃうんだよね。」

「返信ないの?」

「なかなか既読にならない。」

「ふーん、忙しいんじゃない?」

「でも好きだよとかは言ってくれるんだ。」


なにそれ、のろけたいの?

楽しみにしていたスフレをスプーン一杯口に放り込んだ。

甘い、シュワッとした食感が広がる。


「それならよかったじゃん。」

かろうじて、穏やかな言葉が出た。


「・・・うん。」

「なかなかいないよ~?『好き』とか言えちゃう人。それならよくない?」

その点は本当に羨ましい。

「そうなんだけどな~休みの日会えないし、奥さんの事聞いても全然答えてくれないんだよー」

「そんなこと聞いてんの?」

「え?」

美津香はコーヒーカップに手を添えたまま、瞬きを数回繰り返した。

困惑したようにこっちを見る。

「変・・かな?」


おかしくはない。

不倫してたら当然のことかもしれない。

でも、なんか―

「美津香そんな深入りしてたっけ。」

以前とはだいぶ違うように思えた。


美津香は視線をあちこちに動かし、

思い出したようにスフレを口に運んだ。

私と同じ食感が広がってるんだろう。

小さな沈黙が落ちる。


「わたし、すごく・・好きなのかも」


これはマズい。


・・・いや、でも。

美津香がそこまで好きなら、仕方ないか。

私なら、そこまで振り回されないけど。


口を開いて、言うのをやめた。


「ふーん」


私もスフレをまた口に運ぶ。

1口、2口、

とってもおいしい。


「まぁ、そういうことなら、頑張んなよ。」


今日は、来てよかった。

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