主人公は突如死んでしまったオタクです。
一人称が『ワイ』以外は年齢も性別さえも判らない、ただ、熱烈に追いかけていた『推し』が居たことが良く分かる。
そんな彼が、ひょんなことから推しのアイドルグループのPに憑依して……という所から物語が始まります。
そこで起こるのは万バズのアイドル無双でもなく、推しをはじめとしたグループの女の子たちとの恋愛模様やハーレムでもなく、堅実で地道な『推し』へのプロデュースでした。
私は地下アイドルの事情には詳しくはありませんが、主人公の言葉と共にその知識が抵抗なく入り込み、納得のいく作りになっているのが凄いと思います。
一つ一つは小さくて地味かもしれないですが、それがいずれ夢へとつながって行く。
そう予感させる、素敵なお話です。
あと、個人的に主人公と『推し』しか出てこず、名前すら出てこないのが斬新だなぁとも思いました。
続きも少しずつ読ませていただきます。
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タイトルを見たときは、もっと勢い任せの作品だと思っていました。
死んだドルオタが、炎上した推しの担当プロデューサーに憑依する。
しかも主人公は無駄に猛虎弁。
どう見ても、
「ワイ怨霊、推しのPになった結果www」
みたいな話です。
ところが、読み始めてみると驚きました。
この作品、ものすごく堅実です。
主人公は突然アイドルをバズらせません。
まず、推しの強みを探す。
明るくて可愛い曲より、暗い曲の方が似合う。
なぜか。
声が低い。
笑顔より真顔に惹きつける力がある。
本人の内面が、暗い曲を歌ったときに初めて表へ出る。
そこで主人公は過去の動員や物販まで見返し、
「たぶん、こっちや」
と仮説を立てる。
そして次のライブで試す。
目標は武道館ではありません。
「知らん客を、一人だけ止める。」
結果。
本当に一人止まる。
物販まで来る。
チェキを一枚撮る。
たった一枚です。
でも、この一枚がものすごく気持ちいい。
ここで気づきました。
この作品、PDCAでできている。
仮説を立てる。
実行する。
結果を見る。
何が良かったのか、何が足りないのか考える。
そして次の一手へ。
SNSを変える。
衣装の見せ方を変える。
歌い方を変える。
物販を変える。
そのたびに、ほんの少しだけ成果が出る。
新規が一人。
フォロワーが四人。
次は五人。
成功を一気に与えません。
一ミリずつ改善するアイドルたちと一緒に、物語も一ミリずつ前へ進む。
これが本当に上手い。
特に序盤の構成は、とても勉強になりました。
一話で、
「炎上した推しを武道館へ連れていく」
という大きなゴールを見せる。
二話で、
「主人公には推しを見続けてきたオタクとしての知識がある」
と武器を見せる。
三話で、
その武器が実際に通用することを、小さな成功で証明する。
つまり三話までで、
「この作品を読み続けると、こういう気持ちよさが味わえますよ」
というサンプルを、一口だけ食べさせてくれる。
一話でメニューを見せる。
二話で料理法を見せる。
三話で一口食わせる。
この構造がとても強い。
そして面白いのが、読者が作品を信用し始めると、少しずつPDCAの射程を伸ばしてくること。
序盤は一話、二話単位で、
施策。
成果。
改善。
と高速で回していた。
ところが七話あたりから、仕込みを複数話にまたがらせる。
衣装を変える。
物販を変える。
他のメンバーにも目を向ける。
すぐには大成功しない。
ただし途中にも小さな反応は必ず置く。
そして九話。
それまで積んできたものが、一気にカタルシスへ変わる。
さらに十話では、その成功に酔わない。
数字を分解して、
「で、実際に次のライブへ来るのは何人なんや?」
と現実へ戻る。
ここまで来ると、もう偶然ではないでしょう。
PDCAを描いている作品ではありません。
PDCAそのもので物語を駆動している作品です。
しかも、外側の改善だけでは終わりません。
偶数話では、施策の結果を振り返りながら、人物の内面へ入っていく。
なぜ推しは歌うのか。
主人公は何を「推す」と考えているのか。
推しだけ売れれば、それでいいのか。
自分はいずれ成仏するのに、全部自分でやってしまっていいのか。
数字のC/Aと、人間ドラマの掘り下げを同じ回でやる。
だから経営シミュレーションだけにはならない。
ここも巧い。
そして主人公の猛虎弁が、めちゃくちゃ効いています。
やっていることは、
データ分析。
ポジショニング。
SNS改善。
ブランド設計。
PDCA。
なのに語り口は、
ワイ。
中身は経営改善。
口調はなんJ。
この落差のおかげで、堅実なプロデュース論をずっと軽快に読めます。
個人的に特に面白かったのが、キャラクター名の扱いです。
序盤、推しには名前がありません。
ずっと、
「推し」
です。
しかも推し以外の三人も、ほとんど名前を意識させない。
普通のWeb小説なら、あらすじや第一話で登場人物の名前をどんどん出しがちです。
でも考えてみれば、初見の読者にとって名前なんて、最初はただの記号なんですよね。
この作品は先に、
声が低い。
真顔が強い。
よく喋る。
そんな「覚える理由」を渡す。
そして主人公自身が、推し以外の三人を「見る」ようになってから、彼女たちにも名前が付いていく。
名前を覚えさせる前に、覚える理由を作る。
これはかなり勉強になりました。
ただし、ここは同時に少しだけ気になった点でもあります。
序盤、推し以外の三人は意図的に「その他三人」として描かれているのだと思います。
主人公自身が、まだ彼女たちを個人として見ていない。
だから誰の台詞なのか曖昧でも、ある意味では設計通りです。
その意図はとても面白い。
一方で、読者側には
「今、誰が喋った?」
と引っかかる瞬間もありました。
名前を早く出す必要はないと思います。
むしろ出さない方が、この作品には合っています。
ただ、
「!」が多い子。
「〜だし」と話す子。
「ですぅ」と言う子。
くらいの、薄い声の色だけあってもいいかもしれません。
モブではある。
でも、無色透明ではない。
そのくらいの塩梅なら、主人公の認識を先取りせず、読者だけが迷うリスクを少し減らせそうです。
とはいえ、これはかなり細かな話です。
むしろ、ここまで読んで一番強く感じたのは、
Web小説って、こうやって読者を連れていくんだな。
ということでした。
大きな成功を約束する。
でも、いきなりそこへ行かない。
小さな成功を積む。
そのたびに少しだけ人物を好きにさせる。
読者が作品を信用したら、少しだけ長く待ってもらう。
そして待たせた分だけ、きちんと大きなご褒美を出す。
これは確かに「テンプレ小説」です。
ただし、
物語の中身がテンプレなのではありません。
Web小説という形式そのもの。
読者体験を積み上げていく方法そのものが、非常に完成度の高いテンプレートになっている。
とても勉強になりました。
そしてもちろん、勉強になるだけではありません。
推しが一人の客を止めたとき。
新しい客がチェキを撮ったとき。
動画が伸びたとき。
ちゃんと、
「よっしゃ!」
と思わされました。
理屈が綺麗でも、読者が気持ちよくなければ意味がない。
その両方が揃っています。
売れるって、たぶんこういうことなんでしょうね。
桜宮桃なまこという業者が、路地で妙なものを売っていた。「わい怨霊、推しのPになる」
炎上、地下アイドル、武道館、成仏。看板は全部盛りで、正直に言えば胡散臭い。それも、なまこである。見た目で買う客はいない。
しかし、この作品が目に止まった。
第3話まで読む。
このなまこ業者、客をどう止めるかを作中で全部バラしている。一曲目を変える。MCを削る。自己紹介の好きな食べ物をカットする。狙いはただ一つ、「知らん客百人に薄く見られるより、一人に覚えられた方がええ」
そして気づいた。
それ、今わたしにやったやつだ。
ああ、すでに面白い。なまこ中毒になったのだ。
炎上中の地下アイドルを救うため、死んだオタクが担当プロデューサーに憑依。設定の面白さと、ワイ口調のツッコミで最初から何度も笑いました🤣
でも、推しへの愛だけで簡単に成功させないところが、この作品のすごく好きなところです。
過去の数字を調べ、セトリやプロフィールを変え、まずは知らない客を一人だけ止める。その一人が翌日も残ってくれている流れに、武道館への道は、こういう小さな積み重ねから始まるんだと胸が熱くなりました。
本人も知らない魅力を見つけてくれる怨霊Pが、とにかく頼もしくて優しい。笑えて熱くて、いつか成仏してしまうのが今から寂しいです。
二人が武道館へ辿り着くまで、見届けたくなる作品です!
死んだオタクのワイが推しのPに憑依する時点でもう面白いんだけど、そこから急に無双するわけじゃない。
「まず知らん客を一人止める」
「プロフィール直す」
「SNS見直す」
みたいに、やってることがめちゃくちゃ地道なんですよね。
でも、その一個一個がちゃんと数字や客の反応につながっていくのが気持ちいい。
あとワイが、推しだから何でも可愛く見える自分をいったん横に置いて、
「この子の本当に強いところどこや?」
って考え始めるところがかなり好きでした。
オタクとして推しを知り尽くしてるのが、ちゃんとPとしての武器になってる。
会話もテンポよくて普通に笑えるし、
「怨霊がPやってる」というトンデモ設定なのに、アイドルを売っていく部分は妙に現実的w
武道館までどう積み上げていくのか、続きも読みたいです。
私がこの作品でいいなぁと思ったのは、「一人」の扱い方です。
アイドルのファンって、物語の中ではどうしても小さく扱われがちなイメージがありませんか?
たくさんいる観客の中の一人。ライブ会場を埋めるための数字というか、背景というか。
なぜこの作品にはこんなにも惹きつけられるんだろう、と考えていました。
こぉれ、ここで小説を書いている人ならすごくわかるんですよね……。
自分のことを知らなかった誰かが一人、実際に足を運んでくれる。
それがどんなに嬉しいことか。
その一人を増やすために、見えないところで面倒で地味なことを一個ずつ片づけていく。
今、自分たちがやっていることと同じなんですよね。だから共感できる。
予約の数字が一つ増えるだけで、読んでいるこちらまで「増えた!」と嬉しくなってしまう。
百人のうちの一人ではなく、新しく来てくれた一人として描かれているのが、すごく好きでした。
アイドルたちと一緒にP自身の見え方が変わっていくのも好きです。
最初は文字通り「推し」しか見ていなかったオタクが、いつの間にか客席を見るようになり、他のメンバーを見るようになり、ひとつのグループとして見るようになっていく。
好きだから何でも肯定するわけじゃなく、本人がまだ気づいていない良さを見つけて、余計なものを削って、ちゃんと誰かに届く形にする。
武道館なんて、今はまだ途方もなく遠い。
それでも、誰かが背中を『推し』てくれるたびに目標へ一歩ずつ近づいていく。
その道の途中で、一人、また一人と知らなかった誰かに届いていく。
そんな積み重ねを一緒に喜びながら推したくなる作品です!