現役を退いた元バイク整備士・本多一郎。ある日、彼は時間を移動する能力に目覚める。唯一無二の異能の使い道として本多が選んだのは、かつて憧れたホンダの名車を過去から集め、日本全国のバイク好きのためのミュージアムを作ることだった。
もしも過去に戻れるなら「競馬や宝くじを当てて贅沢三昧!」なんて誰しも考えますよね。しかしこの主人公の本多は、大好きなバイクに全力を注ぎ込むから痛快なんです。60~80年代のバイクショップに飛べば、現代ではプレミアとなったバイクを好きなだけ買えるんですから、趣味人ならばどんな贅沢より楽しいでしょう。
作中に登場するのはホンダの歴史を彩った名車の数々です。モトコンポのように有名な車種から、CR93、RS500R、CB1100Rといった型式だけではピンとこないバイクまで。しかし調べてみれば、「昔の映画やドラマで見たことある!」と思い当たる車種ばかり。次第に増えていく名車コレクションに、こちらまでワクワクしてきます。
そして何より心温まるのが、バイクをきっかけに本多が出会う人々との繋がりです。ショップの店員、工務店のデザイナー、ミュージアムに集まる若者、そしてホンダの現役社員たち。大好きなバイクを前に少年のように目を輝かせ、青春の思い出を語り合う男たちの姿が純粋で、自分もその輪に加わりたくなります。
なぜホンダのバイクは、これほどまでに人々に愛されるのか。昭和の時代を熱狂させ、技術や夢を未来へ繋ぐ技術者たちの思いに心を揺さぶられます。すべては世のため人のため、日本が世界に誇る『ホンダイズム』を物語る一作です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)