何を信じ、何を疑えばいい……。
人里離れた山の中。そこで遭遇する「不穏なもの」の数々。
一つが怪しく見えてしまうと、全てが怪しく思えてくる。そんな感じにじわじわと足元が崩れていくような感じが不安感を醸し出してきます。
電話ボックスから聞こえるという幽霊の声を検証した帰り、一人の老人と出会って「女と遭遇しても車に乗せるな」と警告される。
その帰り道で少年と出会い、恨めしそうな目で見られる。
何もかもが薄気味悪く見え、「ここでどう選択するのが正しいのか?」と主人公と一緒になって何度も考えさせられました。
信じるべきは老人の言葉か。それとも、途中で出会った少年の方か。
人智を越えた霊的な何かも関わっているため、五感から入る全ての情報が信用できない。そして正しいと思って行動したはずなのに、後になって「情報」を検査してみると……。
この足元のおぼつかなさこそまさにホラーな不安感。夏の情緒漂う蝉の声が響く風景とと共に、じわじわと恐怖心をかきたててくれる点が面白かったです。
文章がとても読みやすく、気がつけば作品の世界観にどっぷりと浸っておりました。
真夏の暑さ、蝉の声、人気のない山道。
その情景が自然と頭に浮かび、まるで自分もその場所にいるような感覚になります。
何気ない描写や会話が、その瞬間はごく自然に通り過ぎていく。
それなのに物語が進むにつれて「あの描写には、そういう意味があったのか」と、まるで『残響』のように姿を変えていく。
直接的に怖がらせるのではなく、読者の中に小さな違和感を残し、それを少しずつ恐怖へ変えていく構成がとても巧みだと感じました。
さぁあなたも……謎を追いかけているうちに、いつの間にか逃げ場のない怪異の中へ。