<12>給料分の仕事
あれから時はまた流れて、俺の敬語もだいぶましになった。
礼儀作法も王子の護衛として、恥ずかしくない程度には身につけた。
ちなみにエーメル様に紹介してもらった礼儀の先生には、最後には匙を投げられた。
餞別代わりに「あなたは黙っていればそれなりに見えるから、口を閉じなさい」とのお言葉を頂いた。
今でも騎士の訓練で黒髪のマティアスとはたまに会う。
手合わせがあるときはこいつと組むと、互いに怪我をさせる事故が少なくなるので楽なのだ。
あいつは銀髪クラウゼンの護衛兼側近だから、礼儀作法も完璧だ。
見ているだけで、ふとした所作なんかが勉強になるのが少し悔しい。
いや、これがわかるようになったことを前進だと思おう。
「ラルド様ー!今度夕飯一緒に食べましょう。リュート殿下もご一緒に」
「ルイス、殿下は研究で忙しくて夕飯どころではない」
「でも食事を抜くのはよくないですよ?」
「それは……そうだが、言っても聞いていただけないのだ」
「僕と話すときは敬語やめて下さいよ」
「……うるせえな。一度崩れると直すの面倒なんだよ」
ルイスともたまに王宮ですれ違う時に話したりする。
こいつはあの第一王子殿下のところで側近見習いをしているらしい。
いろんな意味ですごいやつだ。
第二王子の執務室へ行くと、殿下が書類の山に埋もれかけていた。
「殿下、書類の整理なら私が……」
「ああ、ラルド。兄上から研究室の使用許可と召喚実験の条件つき許可をいただいた」
研究室。
ロゼリウス様が使っていた召喚の研究室だな。
「それはわかりましたが、ひとまず書類はこちらにお預かりしますね」
「すまんな。兄上にも相談はしたのだが、人手を募ろうにも、召喚の機密を守れる人物でなければならないため、簡単にはいかないのだ」
殿下の側近は相変わらずいないので、俺が兼務みたいな形でいろいろとやっている。
わからないことはルイスも教えてくれるし、助かってる。
研究に関しても、エーメル様がドラゴンの件以降「わたくしもやりますわ」と参加するようになった。
研究室が使えるようになったら、殿下はまた召喚を始めるということだ。
そうしたら、また離宮にいた頃のように倒れるのだろうか。
ロゼリウス様との思い出の場所でもある研究室が使えるからか、殿下は嬉しそうだ。
「研究室があれば、離宮に置いてきた資料を運び込める」
「そうですね」
そういえば、異世界の賢者召喚の資料、集めてたな。
いろいろあったからそのまま放置してきちまったけど。
「せっかく資料集めたのに、確認していただく前に軍へ行かされましたから」
「ああ、まさかあんなことになるとは思わなかったが」
本当は、俺も少しだけわかってた。
殿下は離宮にいた時から、厄介ごとに巻き込まれやすい。
さすがにドラゴンがくるとは思ってなかったけどな。
「ラルド、これからは忙しくなるぞ」
殿下は嬉しそうだ。
第一王子殿下は簡単な仕事しか回してこないので、リュート殿下は信頼を失ったと落ち込んでいたから、なおさらなのだろう。
召喚は殿下にしかできないから。
たとえ、どれだけ倒れたとしても、続けてしまう。
俺にできるのは、傍で支えることくらいだ。
◇◇◇
親父は主君を死んでも守れという。
この人のために死んでもいいと思える方に仕えられるなんて、とても幸せなことだと言うのだ。
だが、俺は主君のために死にたいだなんて思わない。
そんな人生はごめんだ。
護衛はただの仕事だった。
なのに、気づけば、仕事は増えるばかりだ。
もらった給料分、仕事はするけどな。
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