第二話 秘密基地を作ろう

第二話 秘密基地を作ろう


 ドクターガルドスが、自分の置かれた状況を把握するまでにそれほど時間はかからなかった。

 見知らぬ都市に、見覚えのない自動車。

 建造物の様式も、街中を飛び交っている電波も、ガルドスが知るものとは細かな部分で大きく異なっている。

 一方で人間そのものに目立った違いはなく、言葉も通じれば大気の組成にも問題はない。

 何より、夜空に広がる星の配置を確認したことで、ここがまったく別の惑星という可能性は消えた。


「地球ではある。だが、ワガハイの知る地球ではない」


 人目を避けて移動した先にあった建物の屋上で、ガルドスは携帯していた分析端末を操作していた。

 端末はガンドンで使用していた携帯用の解析機器で、周辺環境の調査だけでなく、複数の通信方式を解析して情報を取得することもできる。

 この世界で使われている規格はガルドスにとって未知のものだったが、人間が作り上げた技術である以上、原理から理解できないものではなかった。


「ふん。この程度ならば、すぐに合わせられるわ」


 むしろガルドスが興味を持ったのは、この世界に張り巡らされた情報網の規模だった。

 一部の軍や研究機関だけが使用しているものではない。

 一般市民までもが小型端末を持ち歩き、日常的に国内外の情報へ接続している。

 情報の秘匿という意味では不用心にも思えたが、今のガルドスにとっては都合がいい。

 分析端末をこの世界の通信へ対応させると、現在地や国名から始め、歴史、政治、科学技術、軍事力に至るまで必要な情報を次々と集めていった。


「日本……この国ではそう呼ぶのか」


 自分がいる国の名前そのものには、大した意味はない。

 ガルドスが最初に詳しく調べたのは、この世界がどれほどの軍事力を持っているのかだった。

 戦闘機、戦車、艦船、各種ミサイル。

 細かな技術体系には違いがあるものの、ガルドスが知る地球にも似た兵器は存在していた。

 決して未発達な文明ではなく、分野によっては興味深い発展をしているものもある。


 しかし、調べていくうちに一つの大きな違いへ気づいた。


「巨大機動兵器が存在せん?」


 ガルドスの指が止まった。

 条件を変えながら検索を繰り返す。

 巨大な人型兵器や全高数十メートル級の機動兵器について調べても、出てくるのは創作物や研究段階の構想ばかりで、実戦に投入できる兵器は一つとして見つからない。


 この世界には、かつてガルドスが率いていたガンドンと同等の巨大兵器技術を持つ勢力は存在していない。

 ましてや、ドランヴァードのように邪機獣と正面から戦える巨大人型兵器など影も形もなかった。


「ククク……」


 調査を続けていたガルドスの口元が、自然と歪んでいく。


「ワハハハハハ! なんということだ! ワガハイはとんでもなく面白い世界へ来たようではないか!」


 かつての世界では、どれだけ新しい邪機獣を送り出しても、そのたびに堂蔵の造ったドランヴァードが現れた。

 御堂筋堂蔵と、その孫である御堂筋剛太。

 何度計画を立てても、最後にはあの二人と赤と白の巨体が立ちはだかる。

 ガルドスが敗北した最大の理由を一つだけ挙げるなら、間違いなくドランヴァードの存在だった。


 しかし、この世界にはそれがない。


「堂蔵も、あの忌々しい小僧もおらん。この程度の戦力しか持たぬ世界ならば……」


 かつて潰えた野望が、再び頭の中に浮かび上がる。

 世界征服。

 今度こそ、自分の科学によって世界を支配できるかもしれない。


 そう考えながら情報を集め続けていたガルドスの端末に、妙な検索結果が表示された。


「……なんだ、これは」


 自分の世界で使われていた名称をいくつか検索している途中だった。

 画面に表示された文字列を見たまま、ガルドスの手が止まる。


『超剛機神ドランヴァード』


「…………」


 詳しい情報を開く。

 二十五年ほど前に放送された、全五十話の巨大ロボットアニメーション作品。

 主役機はドランヴァード。

 主人公は御堂筋剛太。

 ドランヴァードを開発した科学者として、御堂筋堂蔵の名前も記されている。

 そして敵対組織は、ガンドン。


 その首領として表示されていた名前を見て、ガルドスは思わず声を漏らした。


「……ワガハイ?」


 画面に表示されたキャラクター画像は、どう見ても自分だった。

 衣装も髪型も顔立ちも一致しており、名前までドクターガルドスと記されている。

 何かの偶然だと片付けるには、あまりにも一致するものが多すぎた。


「なんだこれは!」


 端末を睨みつけながら、検索結果を次々と開いていく。

 ガンドン。

 邪機獣。

 自分が造り上げた兵器。

 御堂筋堂蔵。

 御堂筋剛太。

 そしてドランヴァード。


 文章だけではなく、映像まで残されている。

 自分と堂蔵がかつて同じ場所で研究していたことも、科学をどう使うべきかという考え方の違いから決裂したことも、ガンドンを作り上げて世界へ戦いを仕掛けたことも描かれていた。

 すべてが完全に正確というわけではない。

 アニメとして省略されている部分もあれば、内部の詳細な技術や製造方法まで記録されているわけでもなかった。

 それでも、何も知らない者が想像だけで作った物語とは思えないほど、自分の記憶と一致する出来事が多い。


「馬鹿な……」


 一瞬だけ、自分たちの世界そのものが何者かによって作られたものだった可能性が頭をよぎる。

 しかし、ガルドスはすぐにその考えを捨てた。


「ふざけるな。ワガハイはここにいる」


 堂蔵と研究していた日々も覚えている。

 考え方の違いから決裂した時のことも、最初の邪機獣を完成させた時の高揚も、ドランヴァードに計画を潰された時の怒りも、自分にとっては間違いなく現実だった。

 ならば、別の可能性を考えるべきだ。


「こちらの世界の何者かが、何らかの方法でワガハイたちの世界を観測していた……その結果が、このアニメだとでもいうのか?」


 荒唐無稽ではあるが、今のガルドスには否定し切れなかった。

 自分自身が、実際に別の世界へ来ている。

 並行世界の存在が現実である以上、世界を越えて情報だけを観測する何らかの現象や技術が存在したとしても、完全に不可能とは言い切れない。


「……面白くないな」


 先ほどまで浮かべていた笑みが消える。

 問題は、自分たちの戦いがこの世界で知られていることだった。

 もちろん、二十五年前のアニメを見ただけの一般人が邪機獣を造れるとは思わない。

 公開されている情報を確認した限り、ガンドンの兵器を再現できるような詳細な設計図や製造技術まで記されているわけでもなかった。

 それでも、自分が過去にどんな兵器を使い、どんな方法でドランヴァードと戦ったのかを知る者がいるという事実は無視できない。


「だが、知っているだけでワガハイの科学を止められるものか」


 ガルドスはすぐに考えを切り替えた。

 過去の邪機獣を知っているのなら、同じものだけに頼らなければいい。

 この地球の技術にも利用できるものはある。

 これから手に入れる材料や設備に合わせ、以前とは違うものを造ることもできる。


「過去を知られているというなら、その過去を上回ればよいだけのこと」


 再び口元に笑みが戻る。


「この世界でも、ワガハイの科学が頂点であることを証明してくれる!」


 もっとも、今すぐ世界へ戦いを仕掛けられるわけではない。

 この世界にガンドンの基地はなく、邪機獣を生産する工場もない。

 手元にあるのは、自分自身と転移した際に持っていたわずかな機材だけだった。


 ガルドスはまず拠点を確保することにした。

 再び情報網へ接続し、世界地図や海底地形、航路、海洋観測に関する情報を調べていく。

 求めるのは、人目につかず、大規模な施設を隠せる場所だった。


 やがて、一つの場所で手が止まる。

 かつては海面上に一部が姿を見せていたものの、現在は地殻変動などによって完全に海中へ沈んでいる島。

 主要な航路からも外れ、周囲を通る船は少ない。

 ガルドスは位置や周辺環境を詳しく確認したあと、満足そうに頷いた。


「ここだな」


 海中に沈んだ島そのものを利用すれば、地上から簡単に発見されることはない。

 内部を掘り広げれば、研究設備だけでなく邪機獣の工場や格納庫まで作ることができる。

 今の手持ちだけで、いきなり巨大な基地を完成させることは不可能だ。

 まずは地球の道具や資材を入手し、小さな設備から始める。

 それを使ってより優れた機械を作り、さらに大きな設備を整えていけばいい。


 時間はかかる。

 しかし、ガルドスにとって不可能という意味ではなかった。


「ククク……ワハハハハハ! 待っておれ、この世界の愚民どもよ! ガンドンは、この世界でも蘇るぞ!」


 夜の闇の中に、ガルドスの高笑いが響く。

 この世界にはまだ、ガンドンの名前を知る者はいても、本物の組織は存在していない。

 その再興へ向けた最初の一歩が、誰にも知られないまま始まろうとしていた。


♢♢♢


「遠いな……」


 高速道路を走りながら、俺は何度目か分からない独り言を漏らした。

 目的地は東嶺地方の天峰県。

 両親が亡くなった時に相続した土地の一つが、そこにある。

 土地といっても、駅前の便利な場所にマンションでも持っているような景気のいい話ではない。


 山林だ。


 親父の家系が昔から持っていたらしく、しかも結構広い。

 今までは使い道もなく、売ろうにも欲しがる人間がいるのか怪しい土地だったが、巨大ロボットを隠せる秘密基地を作ろうと考えた瞬間、一気に価値が変わった。

 少なくとも、都会の地下へ無理やり巨大施設を作るよりはずっと都合がいい。


 途中で何度か休憩を挟みながら走り続け、天峰県へ入る頃には周囲の景色もかなり変わっていた。

 建物が少なくなり、代わりに山と森が増えていく。

 さらに目的地へ近づき、幹線道路から外れて細い道を進んでいくと、ようやく見覚えのある場所へ着いた。


「ここだな」


 車を停めて外へ出る。

 子供の頃、両親に連れられて何度か来たことがある。

 当時は、どうしてわざわざこんな何もない山へ来るんだと思っていた。

 まさか数十年後、その山の地下に巨大ロボット用の秘密基地を作ろうとするとは、自分でも想像していなかった。


 周囲に民家はなく、道路からもかなり離れている。

 聞こえてくるのは風で木々が揺れる音くらいで、少なくとも普段から人が頻繁に出入りするような場所ではない。


「うん。ここならいいな」


 山を見上げながら、その地下に巨大な基地が広がっている光景を想像する。

 それだけで楽しくなってきた。

 俺はスマートフォンを取り出し、ここ数日で書き溜めていたメモを開いた。


 生活区画。

 司令室。

 研究区画。

 巨大ロボット用格納庫。

 製造設備。

 動力設備。

 シミュレーター。


 思いついたものを適当に並べただけではなく、一応どう配置するかも考えてきた。

 専門的な施設設計なんてできないので、細かな部分は後で御堂筋博士に見てもらうつもりだが、少なくとも俺が思い描く「秘密基地」として必要なものはできるだけ詰め込んである。

 その中でも、絶対に外したくないものがあった。


「発進設備は必要だよな」


 巨大ロボットを地下格納庫から直接歩かせて外へ出すだけでは、どうにも味気ない。

 地下深くの格納庫から巨大リフトで機体を上げ、発進位置へ移動させる。

 そこから山の中を通る長い発進路を加速し、最後は山腹に偽装された巨大ゲートを抜けて外へ飛び出す。

 実用性だけを考えれば、もっと短くできるのかもしれない。


 でも、そこは譲れなかった。


「せっかく本物を作れるんだからな」


 誰に聞かせるでもなく呟いてから、山の斜面へ手を向ける。

 小さな通信端末を作った時とは規模がまったく違うが、やることそのものは変わらない。

 頭の中で欲しいものをできる限り具体的に思い浮かべ、神様からもらった力を使う。


 ただし、地上の見た目は極力変えない。

 山林そのものは今まで通り残し、外から見ただけでは巨大施設が存在するとは分からないようにする。

 基地へ続く入口も、昔からそこにあった管理用トンネルのような外観にした。

 普段は古びたトンネルにしか見えないが、内部には車両ごと通れるゲートがあり、俺の認証で開閉できる。


 さらに、基地周辺には外部からの観測を誤魔化すための偽装設備も用意しておく。

 地上施設だけでなく、訓練に使えそうな周辺の山林や、巨大ロボットが出撃する山腹のゲートまでまとめて隠せるようにした。

 どういう原理なのかと聞かれても、俺には詳しく説明できない。

 ロボットアニメに出てくる秘密基地には、そういう便利な隠蔽技術がいくつもある。

 今の俺なら、それを組み合わせて使うことができる。


「よし、やってみるか」


 意識を集中する。

 地鳴りも起きなければ、山が派手に割れることもない。

 外から見える景色はほとんど変わらないまま、俺には山の地下へ巨大な構造物が生まれたことだけが分かった。


「本当に便利すぎるな、この能力」


 作ったばかりの入口から車で内部へ入る。

 偽装されたゲートを抜けると、人工的に整えられた長い通路へ出た。

 照明が順番に点灯し、奥まで続く地下施設が見えてくる。


「おお……」


 自分で作ったものなのに、思わず声が出た。

 まだ誰も使っていないせいで静かではあるが、もう単なる地下空間ではない。

 通路も電源も空調もあり、最低限生活できる設備まで動いている。


 まず地下第一階へ向かう。

 ここは生活区画にした。

 俺自身が使う個室に加え、今後人が増えた時のために二十人ほどが暮らせるだけの部屋も用意してある。

 食堂と厨房、浴室、医務室、トレーニングに使えるスペース、休憩用のラウンジも作った。

 一人で使うには明らかに広いが、ずっと俺一人でいるつもりはない。


「まあ、増える予定だしな」


 次に地下第二階へ降りる。

 ここは司令と情報関係をまとめた区画だ。

 中心になる司令室へ入ると、正面には巨大なメインモニターがあり、その手前には複数の操作席が並んでいる。

 ニュースやインターネットの情報を集めるだけでなく、外部観測用の設備や各種センサーから情報を受け取れるようにもしてある。

 奥には作戦を考えるための部屋も用意した。


 そして司令室の少し高い位置には、いかにも指揮官が座りそうな席もある。


「これは……まあ、いるよな」


 一度座ってみる。

 正面の巨大モニターを見下ろせる位置で、左右の操作席まで見渡せる。

 自分で偉そうに命令したいわけではないし、巨大ロボットが完成したら俺自身も乗るつもりなので、戦闘になればここに座っていない可能性の方が高い。

 それでも秘密基地の司令室にこの席がないのは違う気がした。


「うん、いる」


 一人で納得して席を立つ。

 地下第三階は研究開発区画にした。

 分析装置や設計用の端末、電子系の設備、素材を調べるための機器、小型から中型までの部品を加工できる工作設備を並べてある。

 さらに複数のコックピットを置けるシミュレーター室も用意した。


 この辺りになると、俺には何が本当に必要なのか分からない。

 ロボットアニメや設定資料で見た研究室を参考に、それなりに使えそうな設備を揃えてはいる。

 機械としてきちんと動くものを作ったつもりだが、専門家から見れば足りないものや無駄なものもあるはずだ。


「そこは御堂筋博士に直してもらえばいいか」


 俺が全部完璧に仕上げる必要はない。

 必要なのは、博士が来たあとすぐに研究や作業を始められるだけの土台を作っておくことだ。

 実際に巨大ロボットを造り、長期間運用していける基地へ仕上げるのは、その道の専門家に任せた方がいい。


 地下第四階には、今のところ俺にとって一番重要な「嘘」を置いた。

 円形の大きな召喚室。

 中央には人一人どころか複数人が余裕を持って立てる空間があり、その周囲をリング状の巨大装置や複雑そうな機械が取り囲んでいる。

 もちろん、この装置そのものに並行世界から人間を連れてくる能力はない。

 御堂筋博士を呼ぶ時に実際に使うのは、神様から与えられた俺自身の力だ。


 ただし、見た目だけの張りぼてにはしていない。

 各種装置は動くし、光も出れば音も鳴る。

 制御盤を操作すれば、それらしい数値や波形がモニターへ表示される。

 隣には超真エネルギーを制御するための区画も作り、そのさらに奥には俺以外立入禁止にする中枢区画を用意した。

 俺の能力について知られないためにも、ここだけは他の人間に自由に調べられない方がいい。


「危険な未知のエネルギーだから、許可なく入らないでください……これでいいか」


 説明としては十分だろう。

 制御盤の一つへ、『超真エネルギー蓄積率』という表示を出す。

 数値は適当に六十二パーセントに設定した。

 常に百パーセントだと、それはそれで不自然に見える。

 何か大きなものを呼んだり特殊な材料を作ったりした時には減らし、時間が経てば少しずつ戻るように見せればいい。

 これなら、俺の都合で召喚や特殊素材の生成に間隔を空ける理由にもできる。


「我ながら、かなり適当だな」


 全部俺が作った設定だ。

 それでも御堂筋博士へ自分の本当の能力を話すつもりがない以上、ある程度筋の通った説明は必要になる。


 地下第五階へ降りる。

 扉が開いた瞬間、目の前に広がった空間の大きさに、自分で作ったにもかかわらず足を止めた。


「……でかいな」


 巨大ロボット用の格納庫。

 天井は八十メートル以上あり、五十メートル級の機体でも余裕を持って立てる。

 機体を収める場所は全部で六つ用意し、それぞれの周囲には整備用の足場や大型クレーン、武器や部品を運ぶための設備を配置してある。

 当然、今は六か所すべて空だ。


 誰もいない格納庫の中央まで歩き、天井を見上げる。

 空っぽなのに、ここへ巨大ロボットが並んだ時の光景は簡単に想像できた。


「これはちょっと、やばいな」


 三十四歳にもなって、自分で作った誰もいない格納庫を見上げながら本気で感動している。

 でも仕方ない。

 子供の頃から画面の向こうでしか見たことがなかった巨大ロボット基地を、今は自分が本当に持っている。


 格納庫の先には、大型リフトを用意してある。

 機体をそこへ乗せれば発進位置まで上昇し、そこから長い地下の加速通路へ入る。

 その先にあるのが、山腹へ偽装した巨大ゲートだ。


 試しに操作すると、遠く離れた山肌の一部がゆっくりと開いた。

 普段は岩壁と周囲の木々にしか見えない場所の奥から、巨大ロボットが通れるだけの発進口が姿を現す。

 しかも、その一帯はさっき作った偽装設備の範囲内に入っている。

 将来ここから機体が飛び出したとしても、少なくとも山から出た瞬間を簡単に外部から見つけられることはない。


「これだよ。秘密基地なら、やっぱりこれだよな」


 長い発進通路が本当に必要なのかと聞かれたら、実用面では俺にも分からない。

 ただ、必要か必要じゃないかで言えば、俺にとっては必要だった。


 満足したところでゲートを閉じ、最後の地下第六階へ向かう。

 ここには基地を動かすための電力設備や空調、水の処理設備などをまとめて置いた。

 さらに、大型部品や装甲まで製造できるよう、かなり広い製造区画も確保してある。

 大型の工作機械や搬送設備については一応置いてあるものの、この辺りも俺には専門的な使い方まで分からない。

 いずれ御堂筋博士に見てもらい、必要な設備へ作り変えてもらうつもりだった。


 一通り確認してみると、俺が思い描いていた「秘密基地」としてはかなり完成している。

 生活できる。

 情報も集められる。

 研究もできる。

 巨大ロボットを格納する場所も、発進させる設備も、部品を作るための区画もある。

 それでも、本当に巨大ロボットを造り、何度も戦わせ、壊れたら修理してまた使うとなれば、今のままで十分なはずがない。

 俺には何が足りないのかすら分からない部分が多かった。


 そこで必要になるのが、最初から呼ぶつもりだった人物だ。

 御堂筋堂蔵博士。

 ドランヴァードを造り上げた天才科学者で、巨大ロボットの設計だけでなく、長年にわたって機体の改修や整備まで続けてきた人物でもある。

 あの人なら、この基地を一目見ただけでも何が足りないのか分かるだろう。


「問題は、どう説明するかなんだよな」


 神様に力をもらって、ロボットアニメに出てくるものなら自由に作れるようになりました。

 御堂筋博士自身も、俺の世界では二十五年前のアニメに登場していた人物です。

 正直にそんな話をするつもりはない。


 御堂筋博士に協力してもらう以上、少なくとも俺が何を使ってこの基地や召喚を成立させているのか、納得できる説明を用意する必要がある。

 そこで考えたのが、超真エネルギーだった。


「名前はそれっぽいし、悪くないよな」


 設定としては、両親が秘密裏に研究していた未知のエネルギー。

 並行世界へ干渉する性質を持ち、別世界に存在する人間をこちらへ召喚することができる。

 さらに、その世界にしか存在しない特殊な素材やエネルギーも、ある程度なら再現できる。

 俺が神様からもらった能力でやっていることを、全部この超真エネルギーというものを通した結果に見せればいい。


 例えば、ドランヴァードを動かすために必要な剛神力。

 この世界には存在しない特殊素材。

 御堂筋博士が地球の材料を調べたあと、それでも代用できないものが出てきたなら、超真エネルギーで再現できるか試すと言えばいい。


 ただし、この基地そのものまで全部超真エネルギーで一瞬にして作ったことにはしない。

 両親が生前、この山を秘密の研究場所として使っていた。

 地下施設の基礎もその頃から存在しており、両親が亡くなったあと俺が資産を使って少しずつ拡張してきたことにする。

 実際に山も資産も相続しているので、完全な作り話よりは説明しやすい。


「親父と母さんには悪いけど、かなりすごい研究をしてたことにさせてもらおう」


 本人たちはもういない。

 だからといって好き放題設定を付けるのもどうかとは思うが、今の俺にとって一番都合がいいのは間違いなかった。

 それに、俺自身は研究者ではないことにしておく。

 両親の研究と設備を引き継いだだけで、詳しい理論までは理解していない。

 これなら御堂筋博士から専門的なことを聞かれても、分からないものは分からないと言える。


「よし。これなら何とかなるか」


 説明の大枠はできた。

 あとはもう一つ、必要なものがある。


 御堂筋博士を呼んでおきながら、俺一人でやっていますでは少し締まらない。

 少なくとも表向きは、巨大ロボットやガルドスについて調査し、この世界を守るために動いている組織という形にしておきたい。

 ここ数日で考えていた候補の中から、一つを選ぶ。


「ロアガード」


 口に出してみても悪くない。

 細かな由来を聞かれると困るが、秘密組織の名前としては十分それらしく聞こえる。


「今日から、ここはロアガードの本部基地ってことで」


 現時点での構成員は俺一人しかいない。

 組織と呼ぶにはかなり寂しい状態だが、これから増やしていけばいい。


 地下第二階の司令室へ戻り、メインモニターを起動する。

 表示したのは、『超剛機神ドランヴァード』に関する資料だった。

 そこから一人の老人を選ぶ。


 御堂筋堂蔵。

 剛太の祖父で、ドランヴァードを造った天才科学者。

 そして、かつてはドクターガルドスと同じ場所で研究し、互いの才能を認め合っていた人物でもある。


 画面に映った姿を見ながら、俺は少しだけ緊張していた。

 ガルドスを呼んだ時とは違う。

 今度は遠くから眺めるだけではない。

 直接会って、自分の名前を名乗り、この基地やガルドスについて説明し、その上で協力してもらう必要がある。


 もちろん不安はある。

 ただ、それ以上に楽しみだった。

 二十五年間、画面の向こうにいた人物と本当に話せる。

 しかも、その人と一緒に、これから巨大ロボットを造ることになる。


「基地はできたし、次は本物の博士だな」


 俺は司令室を出て、地下第四階の召喚室へ向かった。

 広い円形の空間を囲む装置は、さっきまでと何も変わっていない。

 それでも、これからここに御堂筋堂蔵本人が立つのだと思うと、急に違って見えた。


 ロアガード最初の仲間になる予定の人物を迎えるため、俺は召喚室の中央へ歩いていった。

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