第2話 夏休み
小池さん――祖母は間もなく「さやちゃん」と呼ぶようになる――夏休みになると、小池さんは『アッタ』にやってきた。住まいは『アッタ』の近所だという。
「そうねえ、九時に――」
「八時からもいけますよ!」
「あら、そうお? じゃあ、八時に来てちょうだいな」
最初の日、小池さんは祖母が店を開ける前からきていたそうだ。
「まあま、待たせてごめんなさいね」
祖母はアワを食って鍵を開けたと聞く。この鍵も、祖母はそのうち合鍵をつくって、彼女に渡したらしい。
小池さんは、高校二年生だという。
「家政科なんですよ」
そう言うだけあって、包丁を持たせても手つきに危ういところがない。
「じゃあ、次はこれを乱切りに」
「はい」
下ごしらえがずいぶんはかどったそうだ。
煮たり焼いたりの段になって、小池さんは少し驚いたという。
料理のすべてではないが、いくつかに既製品の味――「白だし」が使われていたことだ。
「便利よ」
祖母にかるい調子で言われて、小池さんは「驚いたというよりショックだった」らしい。
「昆布やいりこでだしをとっていると思ったのに!」
くやしい感じもしたそうだ。
しばらくの後に、祖母から「どの白だしを使うか、ずいぶん味をたしかめて選んだ」と聞いて、ようやく気分がもちなおしたという。
「濃口醤油をつかって」
醤油の瓶になにげなく手を伸ばした時、祖母が言ったことは強く印象的だったそうだ。
「料理は濃口醤油。でないと味が決まらない」
薄口醤油も置いてあるが、まれな料理でしか使わない。小池さんは、醤油の瓶に手をのばす時に、濃口か薄口か確かめることを心がけるようにしたという。
そんなこんなで料理が出来、容器に詰めて、弁当を並べる。
売る人手が増えて、祖母はこれについてもずいぶん楽になったそうだ。その上、店先に若い女性がいるのは、お客さんたちにも好評だったという。
「家の手伝いかな? えらいねえ」
「え、いえ――」
観光客に微笑まれて、小池さんはドギマギしたらしい。
「ええ、おかげさまで、助かってるんですよ」
祖母は微笑んで応えたそうだ。
「いらっしゃいませ」
「お次の方どうぞ」
はじめは出なかった声も次第になめらかになっていった。
料理するにしても、売るにしても、小池さんが来るようになって、祖母はずいぶん楽にはかどったという。
半月ほどは試用期間と祖母は思っていたようだが、むしろ一週間もたたないうちに「バイトを続けてほしい」とさやちゃんに告げたそうだ。
「うれしい! がんばります!」
ポニーテールをゆらしてバンザイする彼女に、祖母は思わず告げたらしい。
「頼りにしてるわね。でも張り切りすぎて、体をこわさないように」
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