【カドコミ漫画原作コンテスト】聖女は愛しき人のために時を巻き戻す

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話 聖女は愛しき人のために時を巻き戻す


○王都近くの田舎道(夕方)

   馬車は襲撃を受けて壊れている。

   アイリーン(18)は壊れた馬車の側に倒れている。

   御者と護衛は息絶えて倒れている。

   

アイリーンM「(意識もうろうとしている)一体何が起きたというの……わたしは魔物を防ぐ結界を強化しに村へ行くはずだったのに……」


   コツコツという足音。

   倒れているアイリーンの頭の側に綺麗な靴を履いた足が止まる。

   見上げるアイリーン。

   ルシア(18)は立っていてアイリーンを見下ろしている。


ルシア(18)「ふふふ、アイリーン。いいざまね」


   黒いドレス姿のルシアが、アイリーンを見下ろしている。


ルシア「まだ息があるのね。本当にしぶとくて、本当に目障りな女」


   ルシアがアイリーンの頭を踏む。

   呻くアイリーンを見下ろして笑うルシア。


ルシア「さっさと死んでおしまいなさい。いまいましいアイリーン! あたくしの目障りな従姉妹! 貴女が死ねば、ベケット伯爵家は晴れてお父さまのもの。ハハハッ」


   高らかに笑うルシア。


ルシア「マーティさまも晴れて自由の身になるわ。安心してちょうだい。公爵夫人の座は、あたくしがもらってあ・げ・る。マーティさまには貴女のような地味な女よりも、華やかなあたくしのほうが似合うわ。邪魔者のチビがいるけど……あんなのは簡単に処分できるわ」


   アイリーンはルシアを見上げて睨む。


アイリーンM「(悲痛な叫び)マーティ! コートニー!」


   ルシアは馬鹿にしたようにアイリーンを見て、彼女の頭を踏む足にガッと力を込める。

   襲撃犯が悪い笑みを浮かべてもみ手しながらルシアに近付く。


悪党「ヘヘヘッ。言われた仕事は済ませましたぜ、お嬢さま。さぁ、約束の褒美を」

ルシア「いいわよ」


   ルシアの背中から黒いツルのようなものが伸びて悪党たちを刺し殺す。

   飛び散る血と悲鳴。


ルシア「ふふ。証拠なんて残すわけないでしょ」


   振り返ったルシアはアイリーンにも黒いツルを突き刺す。


アイリーン「うっ」

ルシア「さぁ、これで全て片付いたわ」


   ルシアは黒い鳥に姿を変えて空へと飛び立つ。


アイリーンM「あぁ、お父さま。お母さま。わたしはどうしたら……」


   アイリーンは震える力ない手で胸元のペンダントを握る。



○(回想はじめ)神殿・外観(日中)

T「アイリーンの結婚式の日」

アイリーンN「ここは聖ラナド王国。聖女に守られる神の国といわれている王国」


○神殿・内部(アイリーンの結婚式の日)

   花嫁衣裳で歩くアイリーン。

   隣には父代わりのトーマス(アイリーンの叔父)の姿。


アイリーンN「わたしはアイリーン、18歳。ベケット伯爵家の娘だ」


○神殿・祭壇手前

   花婿衣装のマーティ(18)が立っている。


アイリーンN「今日わたしは、同い年のマーティ・ダウトン公爵の妻となる」


○神殿・祭場内

   豪華な神殿内部。

   女神の像。

 

アイリーンN「この王国では、人々は魔力を持って生まれてくる。なかには魔力以外の特別な力、聖力を持っている者もいる。わたしは弱いけれど聖力を持っている」


   アイリーンは、トーマスからマーティに渡される。


   列席者の姿。

   国王。嬉しそうなマーティの妹、コートニー(5歳)。苦々しい表情を浮かべる叔父の妻とルシアの姿。アイリーンの成長を見守ってくれた乳母や執事の姿。


アイリーンN「わたしは聖女を多く輩出しているベケット伯爵家の娘として生まれた。母は知らない。貴族の娘としては珍しいことだが、理由がある」

  

〇荒れた王国(回想・日中)

   T「魔物との大きな戦があり王国は傷付いていた」


○ベケット伯爵邸・敷地の端、森との境目(日中)

   T「大戦から一年後」

   乳飲み子のアイリーンを抱き、よろめきながら倒れる父の姿。


アイリーンN「戦争中に行方不明となった父は、乳飲み子のわたしを抱いて現れた。だが父は記憶をなくしていた」


〇神殿(回想)

   乳飲み子のアイリーンが鑑定を受ける。


アイリーンN「わたしは神殿での鑑定でベケット伯爵家特有の聖力を持っていることが確認された。その結果、正式にベケット伯爵家の娘として認められた。同時に数少ない聖女として将来を期待されることとなった」


○ベケット伯爵家・父の部屋(回想)

   ベッドで亡くなっている父。

   アイリーン(8歳)も乳母や使用人たちも泣いている。


アイリーンM「わたしは何不自由なく育ったが、父はわたしが子どもの頃に亡くなった」


○ベケット伯爵家・玄関(回想)

   若いころの叔父とその妻、そして子どものルシア(8歳)。


アイリーンM「代わりに入り込んできたのが父の実弟である叔父だ。叔父の妻と二人の子ども、わたしの従姉妹であるルシアが同じ屋敷で暮らすことになった」


〇神殿・内部(アイリーンの結婚式の日)

   並んで歩くアイリーンとマーティ。

   無表情のマーティ。嫉妬のまなざしを向ける貴族令嬢たち。揶揄うような表情のマーティの騎士仲間たち。

   コートニーは近くに来たマーティとアイリーンに向かって花の魔法を使って花を降らせる。

   驚きつつ表情を輝かせるアイリーン。


アイリーンN「聖女は国外に出ていかないように、国内の有力者と結婚するのが習わしだ。わたしの結婚相手である公爵のマーティさまは、風と氷の魔法を操る騎士でもある」


   アイリーンの近くに降った花を凍らせて風で躍らせるマーティ。


○神殿・祭場内(アイリーンの結婚式の日)

   神官の前で結婚の誓いを行うアイリーンとマーティ。


アイリーンN「こうしてわたしたちは夫婦になった」


○ダウトン公爵邸・食堂(結婚式の日の夜)

   テーブルの上に並ぶ豪華な食事。

   アイリーン・コートニー。マーティは席に座っている。

   緊張するアイリーン。

   楽しそうなコートニー。

   仏頂面のマーティ。


マーティ「結婚は書類上のものだ」

アイリーン「はい。わかっております」


アイリーンM「わたしたちの結婚は政略的なものだ。愛し愛される結婚生活なんて期待してはいない」


コートニー「私はお義姉さまができて嬉しいわ」


   ハートと花をあしらった可愛いデザートをニコニコしながら嬉しそうに頬張るコートニー。


マーティ「コートニー? アイリーンさまはお客さまのようなものだ。我儘を言って困らせたらいけないよ?」

コートニー「お兄さまったら。私は5歳になったのよ? そんな子どもみたいなことしないわ」


マーティ・アイリーン・執事・メイドM「いや充分に子どもだから」


   食事が終わり、あくびをするコートニーをメイドが部屋につれていく。


○ダウトン公爵邸・奥さま部屋入口


マーティ「この部屋を使ってくれ。母が使っていた部屋だ」

アイリーン「はい」

マーティ「(そっけない)君に妻としての役割を求める気はない。好きに過ごしてくれていい。」


○ダウトン公爵邸・奥さま部屋室内

   室内は女性好みのインテリアで整えられている。ベッドのシーツなどは真新しい。


マーティ「(そっけない)今日は疲れたろう? ゆっくり休んでくれ」

アイリーン「はい。ありがとうございます」


アイリーンM「待遇は悪くなさそうね。今日は、疲れた……」


 ベッドで眠りにつくアイリーン。


○ダウトン公爵邸・食堂(朝)

   美味しそうな朝食の並ぶテーブル。

   給仕をする執事やメイドたち。

   朝食をとるマーティ(緊張を隠している)、アイリーン(冷静)、コートニー(ご機嫌)。


コートニー「アイリーンさま。今日のご予定は?」

アイリーン「特に何もないと思うわ。コートニーさま」

コートニー「でしたら、午後はお庭でお茶しましょう。ピクニックよ」

アイリーン「ふふふ。それはよいですね」


   楽しそうなふたりを眺めながら、自分も混ざりたいとは言い出せない素直でないマーティ。

   その姿を見てクスクス笑っている使用人たち。


○ダウトン公爵邸の庭(午後)

   楽しそうに庭を駆け回るコートニー。

メイド「危ないですよ、コートニーさま」

コートニー「大丈夫よ。いつまでも子ども扱いしないで」


   その姿を見守るアイリーンとマーティ。


アイリーン「コートニーさまは、元気で可愛らしいですね」

マーティ「ああ。あの子が生まれて一年経たずに両親は亡くなってしまったが、元気に育ってくれてよかった(複雑な表情を浮かべてコートニーを見ている)」

アイリーン「マーティさま……(痛まし気にマーティとコートニーを見るアイリーン)」


   ふたりの視線を感じたコートニーが、ふたりの所へ駆け寄ってくる。


コートニー「うふふ。お兄さま、アイリーンさまと一緒で楽しそう」

マーティ「コートニー。余計なことは言わないっ(照れ隠し)」

コートニー「ふふふ。お兄さまってば照れているのよ」

執事「そうでございますよ。ご主人さまは照れ屋でして」

マーティ「コートニーっ! セバスチャンっ!(照れ隠し)」


   笑うアイリーン。

   照れたように笑うマーティ。

   楽しそうなコートニー。


コートニー「ねぇ、アイリーンさま。お義姉さまって、呼んでいい?」

アイリーン「はい。もちろんいいですよ。コートニーさま」

コートニー「ふふふ。お義姉さま」

アイリーン「はい。なんですか? コートニーさま」

コートニー「ねぇ、お義姉さま。『さま』は要らないわ。私のことは、コートニーって呼んで」

アイリーン「はい。コートニー」


   笑顔のアイリーン。

   とても嬉しそうに笑って、花壇へ駆けていくコートニー。

   ほっとして嬉しそうなマーティ。

   優しい笑顔で見守る執事とメイドたち。


アイリーンM「この屋敷は、はとても暖かい」


***

(フラッシュ)

○ベケット伯爵家(冷たい日々を回想)

   冷たい叔父夫妻と睨んでくるルシアの姿。

***


○ダウトン公爵・庭(日中)

   過去を振り切るように首を左右に振るアイリーン。

   楽しそうなコートニーとマーティの姿を眺める。

 

アイリーンM「ここでなら、わたしも幸せになれそう」


(回想終わり)


○王都近くの田舎道(冒頭より日が暮れている)

   壊れた馬車の側に倒れて死にかけているアイリーン。

   アイリーンの脳裏によぎる、仲の良いマーティとコートニーの楽しそうな姿。


アイリーンM「あぁ、可愛いコートニー。愛しいマーティ……もう一度、あなたたちに会いたい……」


***

(フラッシュ)

   高笑いするルシア。

ルシア「マーティさまはあたくしのもの。邪魔者のチビには死んでもらうわ!」

***  


   カッと目を見開くアイリーン。


アイリーンM「(悲痛な決意)ダメよ! マーティにも、コートニーにも、手出しはさせないっ! 彼らはわたしが守るっ!」


   アイリーンが握りしめているネックレスが激しく発光する。

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