本作の主人公、ナナシは副業として「レンタル聞くだけの人」を行っている。守秘義務を守ることを条件に相手の話を一方的に聞くだけのこの職業。需要があるのか怪しいと思いきや、他人に言いたくても言えない話を持っている人は意外といるようで盛況なのだとか。しかし、わざわざお金を払ってまで話を聞いてもらおうとするのだから、当然、中には普通だったら人には言えない怖い話や奇妙な話もあるようで……。
というわけで、本作は各話ごとに様々な依頼人がナナシに自分の話を聞いてもらうという連作短編形式になっている。その内容は、地元で続く怪しい因習、ストーカー被害の相談、あるいは殺人の告白など実に様々。一見関係ない独立したエピソードがそれとなく繋がっている節があったり、物語が進むにつれてナナシの体調がどんどん悪化していったりと、派手さはないものの、じっとりとしたいやらしい怖さが付きまとう。
そうしたホラーでありながらも、ナナシの元に来る依頼人たちがやたら個性的なこともあって、怖さと同時にどこかおかしみも味わえるのも大きな特徴。中でもなりゆきで飼われることになった猫のシロさんはとても愛らしく、怖い話を聞かされてざわめく心を癒してくれる。本編は20話に満たない分量で完結しているが、もっとこの世界に触れていたいと思わせる独特な雰囲気を持った一作だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)