とある地方空港に突如出現した迷宮によって、職場をクビになった元管制官・塔野徹。時間を持て余した彼が始めたのは、深夜の動画配信だった。暇人たちが集まる弱小チャンネルだったが、ある晩、迷宮から救難信号が届く。遭難者を無事に帰すため、管制官として培った知識と経験を駆使し、彼らを誘導することに……。
現代ダンジョンものながら、主人公の塔野は一度もダンジョンに入りません。しかし空港の構造を熟知する彼は、配信を通して遭難者と交信し、わずかな手がかりから現在地を特定。安全な脱出ルートを見極めて出口まで導きます。ただの道案内ではなく、冷静に状況を整理して相手に伝達する「管制の仕事」が描かれているのが面白いんですよ。
配信に集まるリスナーたちも魅力的です。タクシーの運転手、看護師、山岳ガイド、弁護士など、さまざまな分野の専門家が集まり、救助に必要な知識や情報を提供していきます。深夜の配信にも関わらず、いつしか視聴者は四千人にまで膨れ上がる。遭難者の無事を願う四千人の小さな善意が、大きな力になっていく光景に胸を打たれます。
しかし塔野の配信はあくまで非公式のボランティア活動。やがて、その安全性や責任を問う声が上がり始める。果たして彼の善意は、社会に認められるのか。知識と経験、そして人と人との繋がりで迷宮に挑む、ひと味違ったダンジョン攻略ものです。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)