第4話
〇屋敷・個室(昼)
ベッドに横たわっている我流。
それを見下ろすエディン、ヴァルダ。
エディン「村の皆がこの人のことを堕人って言ってたけど……どういう意味?」
ヴァルダ「堕人。元魔族のことですな。心と体を闇に支配された魔族が、何かの拍子に本来の自分を取り戻し、人間らしい心を持った者です」
エディン「ってことは僕たちと変わらないんだね」
ヴァルダ「ええ。ただ差別意識は強いようですので」
エディン(独白)「それであの反応だったのか」
エディン、窓から心配そうに覗いているラミラを見る。
エディン「ラミラもそうだけど、ここは不思議なところだね」
ヴァルダ「何がでございましょう?」
エディン「だって、巨人族に元魔族だよ。人間以外の者がこうして集まるのが面白いじゃないか」
ヴァルダ、フッと笑う。
ヴァルダ「村の北には海があり、海の向こう側には魔大陸と呼ばれる場所があります。なので、人間ではない者が流れついて来るのでしょう」
エディン「(ワクワク)魔大陸……行ってみたい!」
ヴァルダ「およそ人間が住めるような場所ではありませんので、諦めてください」
ラミラ「変なところじゃないけど、人がいたらイジメられますよ~」
エディン「僕は友好的な人間なのに、寂しいものだね」
エディンたちが会話をしていると、我流の目元がピクッと反応する。
エディン「(気づき)あ、目が覚めたかな」
ゆっくりと目を開く我流。
視線を動かし、自分がいる場所を確認する。
そしてエディンの姿が視界に入り、彼に視線を向ける。
我流「あんたは……?」
エディン「僕はエディン・ライザック。この村の領主だよ」
我流「村……そうか。私は生きて大陸を渡ってきたんだね」
エディン「やっぱり魔大陸から来たんだ」
我流、横になったままエディンの問いに首を縦に振る。
ラミラ「私は泳いで来ましたが、あなたはどうやって来たんですかぁ?」
我流、窓の外のラミラを見る。
我流「巨人族……ここは人外を受け入れてくれる村なのかい?」
エディン「必要なら。それでいいよね、ヴァルダ」
ヴァルダ「(目を閉じ)坊ちゃんがお望みでしたら、そういたしましょう」
我流、ベッドから起き上がろうとするが、体中が痛い。
我流「くっ……」
ヴァルダ「無理をするな。怪我をしているようだからな」
エディン「どうしてそんな怪我を?」
我流の体、すでに治療されている。
我流、自分の体を見下ろし、
我流「治療をしてくれたのか。感謝する」
自虐的に笑う我流、天井を見上げる。
我流「堕人というのは、魔族からしたら不完全な者、あるいは裏切り者と軽蔑されるのだ。だから私は魔族たちから逃げるようにして魔大陸からこちら側へと逃げて来たのさ」
エディン「そうだったんだ……大変だったね」
エディンの心配する瞳に、我流は目を逸らす。
我流「治療してくれたことは感謝する。村もすぐに出て行く」
エディン「出て行く必要は無いよ」
我流「しかし、人間は堕人を嫌っていると聞く。たとえあんたが人外を受け入れたとしても、他の連中は面白くないだろう」
我流、鼻で笑い立ち上がる。
エディン「面白くないかもしれないけど、面白いって思わせるのが僕の仕事。ここでは差別は認めない。誰がも面白おかしく生きていけるようにするつもりさ」
我流「……そんなことは不可能だろう。人の考えはすぐには変わらない」
エディン、我流の腕に触れる。
エディン「君の怪我と同じだね。怪我はすぐに治らないだろうけど、いつか癒えるものさ」
エディン、我流の体を支えてベッドに戻す。
エディン「だから癒えるのを待つのもいいんじゃない?」
我流「面白いやつだ」
我流、横になり目を閉じる。
我流「では、少し世話になる」
エディン「うん、のんびりしていってよ」
我流「我流」
エディン「え?」
我流、寝返りを打ってエディンに背を向ける。
我流「私の名前だ」
エディン「(嬉しくて)よろしくね、我流!」
〇同・裏庭(朝・日替わり)
エディン、ヴァルダと特訓をしている。
エディン(独白)「神居でトレーニングはできるけど、実戦経験を積むことができないから、ヴァルダとのこの時間は必要不可欠だね」
笑みを浮かべてヴァルダと打ち合うエディン。
そこへやって来る我流。
我流に気づくエディン、汗を拭い彼女の方を見る。
エディン「怪我はもう平気なの?」
我流「平気だ……と、先日までなら強がっていただろうが、お前の前では無意味だな。まだ痛むよ」
エディン「なら無理はしないでね」
我流「だが動けないというほどではない」
エディン「動けるからって無理に動く必要はないよ」
我流、エディンの優しさに胸の辺りをギュっと掴む。
我流「恩を受けたままでは気持ち悪い。何か手伝えることはないか?」
エディン、頬をかいて困った表情。
エディン「手伝えることって、怪我人にしてもらうのは悪いよ」
ヴァルダ「そうですな。我流。無茶をしては坊ちゃまが心を痛める。休める時は休むのだ」
我流「……分かった、無茶はしない。私のできることをやりたい」
エディン、ヴァルダと顔を合わせる。
エディン「無茶はしないのはいいけど……やってもらえることってあるかな?」
ヴァルダ「特に手が足りないということはありませんからな」
エディン「精霊の加護をなんとかしたいって悩みはあるけど、我流には無理だろうし」
我流「(平然と)できるぞ」
エディン「へ?」
驚くエディン。
ヴァルダは視線だけを我流に向ける。
我流「精霊の加護だろ。私にもできる」
エディン「まさか……そんなことって」
ヴァルダの目、鋭く光る。
ヴァルダ「しかし堕人が扱える属性は闇。どのような影響が現れるか……」
フッと笑う我流。
我流「光だろうが闇だろうが、精霊は精霊さ。力は扱う者の心次第。人のために使う力に、良い悪いなんてないのさ」
エディン「これはヴァルダの負けだね」
ヴァルダ、苦笑する。
ヴァルダ「ははは……私もまだまだですな。心の片隅に、差別の気持ちがあったのかもしれません。すまない、我流」
頭を下げるヴァルダ。
我流、一瞬だけ戸惑う。
我流「いや……気にしていない」
頭を下げたままのヴァルダを見ている我流。
我流(独白)「人間とはこういう生き物なのか? 堕人に対して、もっと好戦的だと思っていたのだが……」
〇森・湖
へやって来るエディンたち。
そこではラミラが寝ている。
エディン「(ラミラに)おーい」
ラミラ「(飛び起き)わっ!」
ラミラ、周囲を見渡し、手元にいるエディンたちに気づく。
ラミラ「ダーリン、おはようございます!」
エディン「おはよう。我流が今から精霊の加護を施してくれるみたいなんだ」
ラミラ「そうなんですね! よろしくお願いします」
我流「ああ」
我流、目を閉じて精霊に語りかける。
すると周囲には、黒い力が集まってくる。
その様子を見ているエディンたち。
ヴァルダ「闇の力……やはり禍々しいですな」
エディン「うん。でも僕たちを助けてくれる力になるはずだよ」
エディン、そこで目に電気が走る。
目を抑えるエディン。
エディン(独白)「これは……ラミラの時と同じだ。我流のやっていることが、その全てを把握することができる」
ゴクリと息を飲むエディン。
精霊の加護が張られ、我流はふっと一息をつく。
我流「終わったぞ」
エディン「あ……ありがとう」
我流「この程度のこと、どうということはない」
エディン、少し思案して、
エディン「我流。他にも闇の精霊の力って扱うことができるの?」
我流「ああ。私の得意分野だ」
我流、片頬を上げ、手の中に闇の稲妻を生み出す。
エディン、闇の力を見ていると、目に電気が走る。
エディン(独白)「今回も同じだ。我流の力が手に取るように分かる」
我流、闇の稲妻を槍状に変化させ、湖へと投擲する。
湖の中で電気が走り、魚が浮いてくる。
ラミラ「あ、お魚さんだ! あれ、皆で食べましょう」
ラミラ、魚を回収しに行く。
エディン、我流の力を使おうとする。
しかし失敗に終わり、それを見ていた我流、クスッと笑う。
我流「私の真似か?」
エディン「うん。できそうな気がしたんだけどな」
エディン(独白)「できない……力の使い方は何故か理解している。だけど扱えないみたいだ」
ヴァルダ「それではこれからのことの話し合いもありますし、帰りますか」
エディン「ヴァルダたちは先に帰っててくれない? 僕は少しやりたいことがあるんだ」
魚を回収したラミラ、手を上げて、
ラミラ「はーい」
帰って行くヴァルダたちを見送り、エディンは頷く。
エディン「よし」
〇神居
エディン、いつの間にか神居にいる。
エディン「力の使い方は分かるけど使えない。となるとここで修行あるのみだよね!」
ワクワクを胸に、我流をトレースするように精霊に語りかけるエディン。
一瞬だけ闇の力が集まりかけるが、すぐに四散する。
エディン、闇の力を視認し、
エディン「思った通り、僕にもできる。精霊の力の扱い方が分かる」
笑みを浮かべ、同じことを繰り返すエディン。
エディンN「無駄じゃない。精霊が集まり始めたのを確認できた。僕にもきっと我流と同じことができるはずだ!」
T 「一年後」
エディンの周りに、ぼんやりと闇が集まっている。
エディン「少しずつだけど、精霊を集めることができるようになってきた」
T 「5年後」
エディン、完全に精霊を降ろすことに成功している。
エディン、体内に精霊を取り込むが、精霊が消えてしまう。
エディン「あ! 上手くいったと思ったんだけどな……でも精霊の力を使うことはできた。後はこれをコントロール出来たら僕のものだ!」
エディン、目を閉じて精霊に呼びかける。
T 「10年後」
エディン、黒い力を右手から背中を通して左手へと移動させる。
エディン「へへへ。操作ができるようになってきた。これで闇の精霊の力は扱えそうだな」
エディンN「精霊を扱うことによって、自分の中の魔力総量が劇的に増えた」
エディン、人差し指の先に闇を生み出す。
エディンN「精霊の力を扱えなかったのは魔力が足りなかったからみたいだ。でも大きく魔力を伸ばした今の僕なら――」
エディン、手の中に闇の雷を生み出す。
エディン「十分に扱えるってわけだ」
闇の力を握りしめ、踵を返すエディン。
エディン「また僕は強くなった! ああ、この力を早く試してみたいなぁ」
エディンの無邪気な笑顔。
年相応に見えるが、どこか怖い雰囲気もある。
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