なけなしの三百円で買った釣り針が、じつは禁止品だった。小遣いは空。そこへ週末、「亥の子」がやってくる──石を縄で引いて跳ねさせ、家々の繁盛を祈って回る、西日本の秋の行事らしいです。
語り手は八歳のヨシコ。神主さまの祝詞はお経に聞こえるし、石にお酒をかけるのは勿体ない。行事の有難みはさっぱり分からないけれど、集金袋で鳴る五百円玉の音だけは、はっきり分かる。この身も蓋もない子どもの目が可笑しくて、不思議な郷愁を誘います。
この行事を知らない方は、日常がそのまま異世界のように読めるはず。憶えのある方は、石の音と公民館のカレーの匂いまで蘇るはず。どちらの読み方でも当たりです。方言の会話も心地よい、秋の夕暮れ色の幻想的な掌編でした。