二○三号室への応援コメント
企画から来た者です。
読後、深い思考に沈んでしまいました。
結局、何だったのだろう。
企画の趣旨を鑑みると、語り手は信用できない。
それは彼の精神疾患的な部分に由来し、見えていないものが見えているのか、見えていることを変換しているのか。
最後までその答えが明示されない。
タグがホラーである。
ならばやはり人外だったのか。
いつまでも答えを出せずに、暗い迷宮に閉じこめられたような錯覚に陥りました。
作者からの返信
読んでくれてありがとうございます。
主人公の『納得』が精神的なものであるのは、きっと間違いではありません。
考える余裕は彼にはなく、受け入れてしまう方が楽だからです。
隣人の所在や音の出どころは、読んだ人の中で『納得』を探してほしいなと思い、書きました。
二○三号室への応援コメント
拝読しました。
言い切られないまま残る余白や、言葉の配置にとても惹かれる読者です。本文の中で言葉や人と人との位置がどう作られていくかを辿りながら、私なりに受け取ったことを書いています。ひとつの読みとしてお受け取りいただければ幸いです。
三時半、キッチンへ行くと「コン、コココン」とノックが聞こえる。そこから「そんな隣人が毎夜、壁にノックしている」と続くので、私も最初はかなり自然に、隣人が鳴らしているものとして読んでいました。
ところが、その晩に僕自身がノックを返したところでは、「彼女がノックしているなんて確証はない」と言う。最初の言い切りがなくなるわけではないのに、その隣に確証のなさが置かれて、「本当は僕の部屋から幽霊がノックしているのかもしれない」という別の可能性まで出てくる。
ここで、少し引っかかりました。
この作品の奥で静かに支えているものについて、私なりに考えました。
◇
「いつ帰っているのかわからない。なにをしているのかも、声すら知らない」
隣人との距離も気になりました。毎朝、同じ時間に顔を合わせて、無言のまま会釈まで交わしている。
壁一枚、それも毎日のように会う距離にいるのに、知っていることは驚くほど少ないままです。近くにいることと、その人についてわかっていることが、あまり重なっていない。
そしてノックの方も、「隣人が鳴らしている」という最初の言い方から、「確証はない」、別の可能性、そして「これは孤独な僕への、隣人からのメッセージなのだろうか」という問いへ移っていきます。誰が鳴らしているのかは一つに決まらないまま、語り手の言い方の方が少しずつ変わっていくのが印象に残りました。
もう一つ、読んでいて何度か引っかかったのが、「話さない」ことです。
先生には、以前「あれは幻覚や幻聴のたぐいですよ」と言われたことがあり、「彼は気のせいだと一蹴するんだろう」と考えて、隣人の話をしない。
両親には、「僕は都会に出てきて順風満帆な子どもでありたいんだ」とあって、言えない。
そして最後には、「誰にも理解できっこない。だから話すつもりはない」となります。
同じように外へ出されない言葉なのに、その前に置かれている理由は少しずつ違う感じです。先生に話さないことと、両親に言えないことと、最後に「話すつもりはない」と言うことが、ひとつの理由にまとめられず、そのまま別々に置かれているところも気になりました。
「これは孤独な僕への、隣人からのメッセージなのだろうか」
この問いが出たあと、語り手はキッチンを「ぐるぐる、ぐるぐる」歩き続けます。
そして、そこで「違ったリズム」のノックが来る。
終盤は、何度も読み返しました。
「コン、コン、ココン」
それまでとは「違ったリズム」でノックされ、今度は僕の方から「コンコン」と返す。それでも、五分経っても返事は来ない。
その直後に、
「やっぱり、そうだよな」
とあって、
「僕は〝納得〟した」
と続く。
何を納得したのかは、書かれていません。
ここで何かの答えが明かされるのではなく、「〝納得〟」だけが置かれて、その次には「こんなこと、誰にも理解できっこない」「だから話すつもりはない」「これは僕の秘密なのだから」と続いて、物語が終わります。
「誰にも理解できっこない」から「だから話すつもりはない」へは、はっきり言葉でつながっている。でも、その前の「〝納得〟」が何だったのかまでは渡されない。その間をこちらで埋めようとすると、本文にないものを足してしまう感じがして、その先までは、私には言い切れませんでした。
それから、「納得」という言葉そのものも目に残りました。
前の方では、「もし、彼女が幽霊で僕の部屋に来て、目の前に現れても、僕は納得してしまうくらいには不思議な雰囲気をまとった人だった」と、普通に「納得」と書かれている。それが最後だけ「〝納得〟」になっている。
同じ言葉なのに、ここだけ見た目が違う。
その記号が何を意味しているのかまでは、私には決められません。ただ、その差も含めて、最後の数行では急に、こちらへ手渡されないものが増えたように感じました。
誰がノックしていたのかは、最後まで一つには決まらない。
僕が何に〝納得〟したのかも、言葉にはされない。
それでも、「誰にも理解できっこない」「だから話すつもりはない」、そして「これは僕の秘密なのだから」という言葉だけは、最後にはっきり置かれています。
わからないまま残された部分と、最後に言い切られた部分。その二つがどちらか一方に片づかず、同じ終わり方の中に並んだまま残るところが、読み終えてからもずっと引っかかっています。
作者からの返信
とても丁寧に読んでくださって、ありがとうございます。
ここまで細かく文章を拾っていただいた感想は初めてだったので、書き手としても興味深く拝読しました。
特に「〝納得〟」について、何を納得したのかを書かないまま終わらせた部分まで受け取っていただけたのが嬉しかったです。
ただ、この作品については、私から「こういう意味です」と答えを出すのは控えようと思っています。
私なりに考えていたことはありますが、読んだ方が本文から感じ取ったものも、この作品の一部だと思っているので。
「分からないまま残された部分」と「最後にはっきり置かれた言葉」という捉え方も、とても面白いなと思いました。
ここまで丁寧に読んでくださって、ありがとうございました。