第6話【スポーツ大会③】俺の部署のメンバーは、全員が「宝」だった

 いよいよ決勝。

 16-12。

 4点リード。


 なんだこれは、と全員が自分で自分にそう思いながらも、俺たちの快進撃はとうとう終盤までやってきた。


 自分で言うのもなんだが、現役の頃の勘がわりかし早い段階から蘇ってくれたおかげで、かなり上手く全員のフォローが出来ている気がする。

 こちらのコートへボールが返ってくる瞬間に相手コートの位置関係を記憶しつつ、味方がレシーブする瞬間にその後のボールの軌道とセットアップ先をシミュレーションして組み立てる。

 その一連の思考の回路に、12年ぶりにスイッチが入る感触が気持ち良かった。


 疲労はここに極まれり、なレベルだが、楽しさが先に立つと人の身体はその疲労を無視し始める。


 するとどうしたことだろう。


 ここにきて、向こう1年間は幸せに過ごせそうなくらいの言葉が耳に飛び込んで来た。


「ヤバイ!飛田課長が死ぬほどかっこよく見えてきた!」

「わかる!」


 笹沼さん。千守さん。

 ありがとう!


 この盛り上がり。

 しかも「褒め言葉なのだから、もはや本人に聞こえたとて今ならかまわないだろう」という勢い任せなこの雰囲気に敬礼。


 ネットスレで言うところの「この速度なら言える」現象。


 しかし悪いな。

 流せない。


 しばらくは、俺はそこにタグをつけて脳内保存させていただくつもりだ。


 ……そして不思議だね。


 バレーボールで活躍。

 褒め言葉をもらう。


 人はこんなリア充状態に置かれると、仏のような母親のような気持ちが芽生えてくる。


「こいつらにも何か収穫を持って帰らせてやりたいな」


 いや、試合で優勝することが何よりの収穫であり、チームとしての一体感に貢献するであろうことは、承知しているけれども。

 彼らの今後の業務に、他にも何か、一つでも。


 とんだ欲深い仏かな?

 まあいいか。


 アドレナリンが出ている今こそ、欲を出して損はない気がする。




 まず児山。

 完全にいいゾーンに入っている。

 序盤こそ大森さんをチラチラ意識しながら、いいとこ見せようとしているのがバレバレだったが。

 試合そのものが楽しくなって、そちらに集中できてきたらしい。


 全部トスは俺によこせ!と全身から聴こえてくる。


 もともと集中力があるタイプだしね。

 叱責をふやかして投げても、「ちゃんと個として受け止めるべきだった」とぶつかってくる(謎の)責任感もある。

 暴走しがちだが自分のケツは自分で拭くという(謎の)覚悟もキマっている。


 ……あとはなんだろうな。


 警戒心。若しくは「恐怖心」かな。


 自分で拭けないケツがあることを知ると、慎重さが生まれてきてくれるかもしれない。


 よし。

 一つ拭けないケツを用意してやろう。


 俺はサッと児山に寄った。


「あのさ児山」


「はい!」


「俺実はさ、これ優勝したら、婚活サイトに会員登録しようかと思ってんだよね。いいきっかけかなって」


「えっマジすか!」


「うん。だから、できれば勝ちたい。てことで、頼むな。お前に上げるからな、トス」


「えっ!うわ!ええっ!?……お、おぉう!わかったっす!やったりましょう!」


 婚活サイトなんて検索したこともなかったけどね。

 ホントに頑張ってくれたら、考えてみようかな。

 フフ……頑張れ児山。


 誰かのためにも負けてはならない。


 「人のため」というプレッシャーにもどうにか打ち勝ち、一つ皮を剥いて見せてくれたまえ。


 そうだな、もしそんな姿を見せてくれたら、そのときは勝っても負けても、社食の『デラックスランチセット』のチケットを3枚ほどプレゼントしてやろう。




 次にライト。河野さん。


 俺と同じくらいの、女性としては立派な背丈。

 スポーツとは無縁な女子大生だったらしいが……。

 惜しい。

 いや惜しいなんて価値観を押し付けちゃいけないよな。

 そこは本人の自由だし。


 でもどうせだったら一つくらい成功を掴んでほしい。


 ということで今度は彼女の方にもサッと寄ってみる。


「河野さん河野さん」


「はい。あ、え?」


「ブロック飛ぶ場所、難しいですよね?」


「すみません、当たる気がしなくて」


 そうだよね。

 どこ打ってくるかの予測どころか、飛ぶタイミングすら始めはわけわかんないはずだ。


「相手の身体の向きとか肘の角度とか……一度そういうのは忘れちゃいましょう」


「ええっ。いいんですか?」


「うん。まず目の前の人。あの人が打とうとするときだけブロックに飛ぶ。これで統一してください。それで、どんな人が打ってきても、だいたいボールがこちらに叩きつけられる場所ってあの辺の高さなんです」


 ネットの5cmくらい上を指差す。


「だから、相手というより、まずはボールを目で追いかけてて大丈夫です。向こうのレフト、あの人にトスが上がったら、ボールを目で追いながらブロックに飛ぶ。あの辺りの高さにボールが落ちてくるタイミングを見て。こちらのコートにボールがやってくるのは、絶対ネットの上のあの辺りの高さからですから」


 素人を見越した上での究極の理論だが、それくらい的を絞れた方が本人としても飛びやすいだろう。

 打ってくる方へのプレッシャーだけでも、かけていけるはずだ。


「はっはい!やってみます」


 うん。頑張れ。


 次は……。

 おれはバックライトを守っている鴛淵さんに近づく。


「鴛淵さん、どこからどこまで手を出していいか、わかりにくいでしょ?」


 守備の範囲決めは難しい。

 しかもずっとともに練習してきたチームメイトですらない。

 邪魔してしまわないか、ぶつかってしまわないか、考えていると手が出にくくなる。


「自分かなと思ったものは全部手を出して大丈夫です。そのとき一つだけ。両手を目一杯広げて、『はーい』って叫んでから拾う」


 これは逆サイドの片寄さんには難しい話かもしれない。

 男性の場合、女性の身体に手が当たってしまう可能性が、どうしても頭を掠めてしまうことがあるからだ。


「さ、叫っ!?え、できるかな」


 大人しめの鴛淵さんには是非一度、逆に大声を出してみて欲しかった。

 今後においても、彼女の中で何かが変わるかもしれない。


「衝突などの怪我の予防としても、大切だったりします」


 脅してまで声を出せと言うつもりはないが、これは本当にそう。

 すでに1試合目で、ぶつかったまま絡み合って転んでいたチームがあった。


「そっか……。わかりました。頑張ります」


 そう言うと、鴛淵さんは両手で小さいガッツポーズを作ってくれた。


 可愛い。


 いや、可愛いだけじゃないな。


 素直なんだ。


 そうか、ウチのメンバーはみんな素直なんだな。

 言われたことを一度やってみようと思える人たちなんだ。


 ……これって、結構な「宝」なんじゃないか?

 それに改めて気づけたことが、俺にとっては一番の収穫かもしれない。


 一人一人が少しずつ、新たな自分や周囲への感動の芽を育てはじめたまま、勝負はいよいよ最終局面へとなだれ込んでいった。


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※最後まで読んでいただきありがとうございます!

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