第13話 光の猫巨人?

 真空暴露したはずのゲミニャスを直後、紫色の結晶が、球状に覆った。

 ……ような気がしたのにゃ。




『おい誰にゃ、そこにいるのは?

 きみはいったい何者(にゃにもの)にゃ?』

『俺に巻き込んで、申し訳ないことをした。

 危ないところを逃がしてもらった代わり、きみたちの命と船体は蘇生させよう』

『そしたらきみは、どうにゃる?

 命を戻すなんて、簡単に言わないことにゃ』

『ふっふっふ……心配することはない』


 猫人、ではないのだけど、不思議と不快な相手ではなかったにゃ。


*


 目が覚めると、殿下が狭苦しい艦内で、謎の人物とお話ししているのにゃ。


「ほぅ、そちらの世界のギリシャ語やラテン語にゃる言語は、猫都市国家群(ねこねこねっと)の公用ギリニャ語と非常に似通った言語体系を持っているようなのにゃ、実に興味深いにゃ。

 あなたと筆談しかできないのは、やや残念なのにゃが――、ミニャセ殿とやら、あなたがとても知的な人物で、我も嬉しいんだにゃ」

「?」


 殿下がやがて、気づいた我のほうへ振り返った。


「おう、目が覚めたか、ネニャルコス」

「そ、その、宇宙人は――!?

 普通の猫人(ネコ)では、にゃいですよね……」

「簡単に言うと、あの人形に乗ってたひとにゃ。

 発声はできにゃいが、ギリニャ語を介した筆談は、辛うじて成立しているようにゃ」

「宇宙人と我らの言語体系が重なるって、そんにゃことありえるんかにゃ?」

「宇宙人、にゃるほど言いえて妙だな。

 とはいえ、彼は我々とは星系はおろか、概念のまるで異なる世界からやってきたと主張している」

「……殿下、本気で信じているんですにゃ?」

「まぁまぁ」


 殿下は我に寄って、耳打ちしたのにゃ。


「彼は自分のことを『ニンゲン』だと定義し、そのように主張している」

「我々で言うところの猫人(ヒト)とは、全然違って見えますにゃ」


 殿下も頷かれた。


「そのようにゃ。

 で、元の世界へ戻るために、複数の異なる世界を渡ってるようにゃ。

 ひとつ前には彼と似たようなニンゲンの地、凍土に覆われた『かれふ』、なる地を観測してから、立ち去ったそうにゃ。

 こっちの世界へ転移したときは打ちどころ悪かったみたいで、ローニャ軍にたたき起こされるまで、気絶してたらしいのにゃ」

「それこそ、渡り鳥みたいなものなのですかにゃ?

 面倒なやつを、連れ帰っちまったのですにゃ」

「そう言うなって、あのままだと我々はゲミニャスの船体諸共死んでたのは、まず間違いにゃいだろう」

「彼の謎の力……あの結晶に助けられたと?」

「そうだにゃ」


 我は、我らの命を拾ったというこの男を全面的に信用するわけにもいかないのにゃ。蘇生を口実に、どんな言いがかりや条件を吹っ掛けられるかわからにゃいのにゃ。

 それこそ光の猫巨人になって、未知なるカイジューと戦ってくれ、にゃとか。

 そういう戯曲の見すぎだと、殿下にはおもいッきし笑われたのにゃ。

 ……自分こそは神の子だって、オニャンピアス様に言い含められたり、わりと本気で信じてるまであるくせに、ひとがちっとでもそっち方面に被れると途端にこれなのにゃ、面倒くさい。


「彼の力は、神物のそれに匹敵するのにゃ」

「場合によっては、魔法や呪いの類かもしれませんがにゃ」

「それも考えないではないが――俺は、彼の力はまやかしなどではなく、本物だと考えるかにゃあ」

「……根拠は?」

「そのほうが楽しいからにゃ!!!」

「あっはい」


 真面目に考えたところで、我らが本当に一度死んでいるなら、いまの我らの身体は蘇生した彼の好きなようにできるということにゃ。

 彼が『ニンゲン』つうやつにゃら、彼の世界には同じような種族がいるってことだろうかにゃ。


「それにどのみち、艦の跳躍装置では王国領に届かなかったにゃ」

「にゃんて?」

「銀河座標を跳躍後に算出したら、ぎりぎりダンノウーラ星系の端っこだったにゃ。そこでこっちの艦内の空気と推進剤の残量もほぼ限界だったにゃが、彼の人形が動いて、俺たちを王国領まで転移させてくれたのにゃ」

「全部殿下の見立てが甘かっただけではにゃいですか!!?」

「結果おーにゃい、なのにゃ!!!」

「仮にぜんぶ事実だとしても、我ら一度死んでるンですがにゃぁあああああ!!!??

 おーまいにゃーなのにゃーーーー!!!!!!!」

「問題ない、ネニャルコス。我こそが新時代の猫神(かみ)なのにゃ……!」

「現人神(あんた)はもっと内省しろなのにゃ゛ぁあああああ!!!!!!!!」


 生涯後にも先にも殿下に向けて出ることのない拳が、今回ばかりはその頬を的確ににゅぷ捉えてたにゃ。不敬なんぞ、最早知ったことじゃないのにゃ。どうせ一度死んだんにゃし、今の我は無敵なのにゃ。

 まだメントニャの肉球を、ろくにぷにぷにできないうちにくたばるなんて、絶対にごめんなのにゃ!


「悪かったにゃ、悪かったにゃって……」

「プトレと言い、殿下と言い、ミヱニャの頃からまともなやつは、ハルパだけなのですかにゃ!?」

「確かに、我と一緒に蘇生まで体験してくれるイカれ野郎(ニャろう)は、ネニャルコスくらいかもしれないにゃあ!」

「もうやだよこんな国ぃいいいいい!!!」


 殿下のおかげで頭を抱えることは多々あったものの、我は今度という今度は本気で嫌気がさしたのにゃ。

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