謁見

「アレン様、王城が見えてきましたよ」

馬車での移動中、うたた寝をしていると向かいの席に座るオリアが静かに声をかけてきた。

「ん…そうか」

「はぁ、その様なお姿を安易にご令嬢の前でお見せになりませんように」

「…なんだ?」

「いえ」

呆れ顔でそっぽを向くオリアに俺の頭の中はハテナマークで埋め尽くされていた。

まぁ、考えるだけ無駄なんだろうけど。


考えるのを放棄して馬車の小窓から外を覗くと、久々の光景が目に入ってきた。

今日は王家主催のパーティが王城で開催される。

王都に来るのは学園を卒業して以来だから約五年ぶりだろうか。

本当は行きたくなかったのだが、断る術がなかったんだよなぁ。


「誰だ、俺に招待状を送ったのは」

「王家の紋章が入っていただろうが」

「レオン兄上……」

俺の呟きに横に座るレオン兄上が咎めるようにそう言った。

「王都は久々だろう?良い機会だと思って楽しめ」

「王都と王城では雲泥の差があると思うのですが…」

「細かい事は気にするな」

真面目に回答するレオン兄上には絶対に口では勝てない。


レオン兄上の言葉に、ふと考える。

確かに王都は久しぶりだ。

それに───

「……まぁ、多少は楽しみでしたけど」

不意にあの日の庭園での出来事が俺の頭に蘇った。

彼女はパーティに来るのだろうか?

「そうなのか?」

「多少ですから。そういうレオン兄上はどうなんですか?」

俺の言葉が珍しかったのか、不思議そうに聞くレオン兄上に逆に聞き返す。

「社交の場は貴族の繋がりを保つための舞台だ。だが、それと同時に友人と会う場でもある」

「友人ですか?」

「互いに忙しい身だからな。こんな機会じゃないと満足に会えもしない。楽しみといえば楽しみだな」

少し微笑みを浮かべるレオン兄上はとても楽しそうだった。


「お二人とも、そろそろ降りる準備をお願い致します」

オリアの指示で俺達の身なりを今一度確認した。

確認し終えたところで、馬車が王城の入口に止まり、御者が扉を開けた。


会場内に入ると王城の使用人が俺達のもとに来た。

「ユグスク公爵家のレオンハルト様とアレン様ですね。こちらに休憩室をご用意しております」

使用人に案内してもらいながら周囲を見る。

他の貴族達はまだ、到着していないようだった。

まぁ、公爵家の人間が他の貴族と同じ時間帯に来ればそれだけで騒ぎになるからな。


「アレン、パーティが始まり、両陛下に挨拶してからは私とは別行動になる。無理に令嬢や令息と関われとは言わないが自らの力になりそうな人は見つけることを勧める」

「はい。ありがとうございます」

休憩室までの道中、レオン兄上がそう助言する。

レオン兄上の無理に強制しないその言葉に心が少し温かくなる。


「こちらになります。パーティ開始までしばらく時間がございますので、お寛ぎください。専属のメイドをおつけしましょうか?」

「いや、大丈夫だ。既にいるからな」

「承知致しました。何かございましたら何なりとお申し付けください」

「あぁ」

王城の使用人は扉を出る前に俺とレオン兄上に綺麗な礼を取ると退出した。


それからしばらくレオン兄上と休憩室で過ごしていると、パーティ開始の合図を告げる鐘が響いてきた。

「アレン、行こうか」

「はい。オリアはここで待機していてくれ」

「承知致しました」

鐘の音で立ち上がるとレオン兄上に続き休憩室から出た。

きっとここに戻ればオリアが美味しい紅茶を淹れてくれるだろう。


それから王城内を進み、会場の扉の前に到着した。

「ユグスク公爵家嫡男、レオンハルト・シューア・ユグスク様、三男アレン・シューア・ユグスク様、ご入場です」

公爵家に連なる者が招待されている場合は入る前に名前を読み上げる習わしがある。

目立つからやめて欲しいんだが。

「アレン、気を抜くなよ」

「抜きませんよ。ユグスク公爵家の恥になる訳にはいきませんから」

「そういうことじゃ…まあ、いい」

何か言いかけるレオン兄上を不思議に思いながら、会場に足を踏み入れた。


踏み入れればやはり視線を感じる。

「ユグスク公爵家の三男といえば、〝あの〟?」

「えぇ、公の場に姿を現すとは……」

言葉を濁すくらいならはっきりと言ってくれた方がいい。

その方がダメージは少ないというのに。

「アレン、大丈夫か?」

「えぇ、大丈夫ですよ」

辺りから聞こえる声に心配してくれたのかレオン兄上が声をかけてくれた。

このくらいでダメージを受けているようではいけないよな。


「キルリアン・スーリ・ヒスマリア国王陛下、アナ・スーリ・ヒスマリア王妃殿下、ユリウス・スーリ・ヒスマリア王太子殿下、お成りです」

その声で会場内の貴族達が素早く臣下の礼を取る。

厳かな雰囲気の中ここ、ヒスマリア王国の両陛下と王太子殿下がゆっくりと会場に姿を現した。


そのまま会場内に用意してある専用の椅子の前まで行くと国王陛下が言葉を発する。

「皆の者、頭をあげてくれ。王城の料理人が腕によりを掛けて作った料理を用意した。存分に楽しんでいくといい」

その言葉で何も乗っていなかったテーブルの上に次々と料理が運ばれてくる。

料理が全て運ばれるのを待ち、貴族達は我先に両陛下に挨拶の為に向かう。


俺達は挨拶があらかた終わったのを確認して両陛下に挨拶をすることにした。

両陛下は大勢の貴族から挨拶を受けている。

今押しかけても迷惑になるだけだ。

無駄に並ぶくらいなら料理を楽しもう、という考えだ。

それに、国王陛下が直々に紹介した料理を事前に食しておけば挨拶の際に話の種になる。

それはレオン兄上も同意見だった。


しばらくして、人が少なくなったことを確認し、両陛下の元に向かう。

挨拶をし終えた貴族達はそれぞれの繋がりを強固にする為、励んでいる。

「国王陛下、王妃殿下並びに王太子殿下、本日はお招きいただき、感謝いたします」

俺達は臣下の礼を取り、レオン兄上が両陛下、王太子殿下に挨拶の言葉を述べる。


「久しいな、レオンハルトにアレン。ユグスク公爵は息災か?」

「はい。本日この場に参加出来ないことを気に病んでおりました」

「そうか。ユグスク公爵には気にするなと伝えておいてくれ」

「承知致しました。陛下のお心遣いに感謝致します」

レオン兄上と国王陛下の会話を横で聞きながら、俺は両陛下の隣に座るユリウス王太子殿下の視線に耐える。

レオン兄上と国王陛下が会話をしている以上、俺が別で話す訳にはいかない。

聞きたいのに……!


「あ、そうであった。アレンよ、辺境での統治見事であった。あの辺境を平定したお前に何か褒美を与えようと思うのだが、何か希望はあるか?」

ユリウス王太子殿下の視線にどう対応するか考えていると国王陛下が俺に言葉をかけた。

「お褒め頂き光栄です。しかし辺境は国王陛下から管理を任された我が公爵家の領地です。俺はユグスク公爵家の人間として統治したに過ぎません。どうかユグスク公爵家に褒美をお与えください」

「ふむ、そうか。……レオンハルトはどう考える?」

「正直に申しますと、私はアレンに褒美を与えていただきたいと思っております。しかし、アレンが我が公爵家にと望むであれば、と」

レオン兄上は俺のことを気にしつつ国王陛下にそう返答した。


「承知した。この事についてはユグスク公爵とも協議し決定しよう」

「お心遣いに感謝いたします」

「いい。我が国に利益をもたらしてくれたのだ。この程度なんともない。さて、長々と引き止める訳にもいかないな。パーティを楽しんでいってくれ」

気遣ってくださった国王陛下に臣下の礼を取ると俺達はその場を離れた。

その後、俺達は再び貴族達同士の繋がりのために別行動で動き回ることになった。


だが、ユリウス王太子殿下の視線だけは一向に消える気配がなかった……。

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