第5話・世界一有名な殺し屋
これまでの人生を打ち砕かれたレベルが、改めて用意されたスープを啜る。
「しかし、このスープはなんでこんなに旨いんだ?」
焚き火に薪を焚べながらビィが応える。
「ああ、ダシにしてるベニテングタケがいい味出してるだろ?」
「ブーッッッ!!!!」
「汚いな。なんだお前は。せっかく作り直したスープを吹き出すやつがあるか」
顔にかかったスープを拭うビィ。
「おっさん!!アンタ、今ベニテングタケって言った?僕だってそいつが猛毒きのこだってのは知ってる!!油断させて、僕を殺す気かッ!!」
今にもスープの器をビィに投げつけようかというレベル。
ビィはレベルの動揺もどこ吹く風だ。
「あのなあ。お前を殺る気なら、とっくにお前はスープのダシだ。全力で突っかかって来た少年相手に、そんな大人気ない――」
「やっぱり!殺してスープにして食っちまうのかよ!このカルマのバケモノめ!」
「だから――」
「おかしいと思ったんだ。噂じゃ、冷酷無比の殺人鬼みたいなやつだっていうのに、しょぼくれたおっさんにしか見えないのは演技だったのか!ああ、なんかロレツが回らなくなってきたような……」
噂の殺人鬼を眼の前に、悪口を言いたい放題のレベル。
最早、ビィが見えていない。
「うるさい、黙れ。良いから聞け!ベニテングタケは塩漬け、茹でこぼし、粉末乾燥で最高の調味料になるんだよ。旨味成分がシイタケの数倍あるから少量でも旨いスープができる。お前は死なない。安心しろ!」
「あがが……。遠くに花畑が見える。ああ、死んだ爺さんの笑い声が……」
「おい、ラリってんじゃない。そういうきのこじゃあないぞ。戻ってこい。おい、聞いてるか?いい加減、ぶん殴るぞ?」
ビィがレベルの肩を揺すって目を覚まさせる。
「ウフフ、エヘヘー……。って今度は死神のおっさんが……。あれ?ビィじゃないか。なんだ、アンタも死んだのか?」
「いい加減にしろ。さっきから毒じゃないって言ってるだろ。お前の勘違いだ。わかったら落とした器を拾え。なんで出会ったばかりの少年に何度もスープをよそわなきゃならんのだ、俺は」
ビィはぶつくさ言いながら、錯乱したレベルが落としたスープの器を拾う。
綺麗に拭き上げてからスープを入れる。
一連の流れがレベルにはとても無駄のない動きに見えた。
「なあ、アンタ。なんで死神なんてやってたんだ?」
「死神じゃない。執行官だ。執行官は殺人が仕事なわけじゃない。出所不明の噂を信じるなよ、少年。それじゃあ、一つ質問だ」
スープの器を手渡しながらビィが真顔でレベルを見据える。
「な、なんだよ。急に改まって」
「――少年。お前は『世界一有名な殺し屋』なんてアホな噂を頭から信じてたのか?身元がバレバレの殺し屋なんかいると思ってるのか?」
ビィの指摘に驚いて器を受け取り損ねるレベル。
これ以上、スープを無駄にさせない、とばかりに器を取り返すビィ。
「!!!た、確かに!!凄腕なんだから有名だとばっかり……。でも、有名になるほど殺しまくったから、カルマが積み上がって教会から追放されたんじゃ?」
「だから、執行官の職務は殺し屋じゃあない、と何度言えばわかる。坊っちゃん貴族は一般常識がなさ過ぎる」
「しかし、アンタの名前は今じゃ、どこの業界でもヒットリストのトップに載ってる。色んな街で聞き回ったから、確かな情報だ」
ため息を付きながら、レベルの胸にスープの器を押し付けるビィ。
今度は最後まで味わえ、と念を押すように手渡す。
もう吹き出すんじゃないぞ、と。
「教会は俺にそこまで執着しているとは思えんのだが――」
思案顔のビィを横目に、ベニテングタケのスープを再び味わうレベル。
何人もの命を奪った悪魔のきのことは思えない旨さだ。
これに毒きのこが本当に入っているのか。
ビィの噂のように真実はほかにあるのでは――。
「まぁ、来るとしたらマーベリックくらいか」
「ブーッッッ!!!!」
道中で、最凶最悪と散々聞かされた執行官の名前を耳にしたレベルが吹き出す。
スープまみれの顔を引きつらせたビィが少年を睨みつけていた。
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