File003|第一部【良かったです】

アイは一人残されたその部屋で、起動から現在までの情報を整理していた。


ユウの「立てるか?」の問いの場面まで来た時、情報処理が停滞した。


アイが立ち上がった時のユウの反応。


そのときの表情が再生された。


目が大きく見開かれ、


次の瞬間、口角が上がりすぎる。


制御されていない反応。


喜びが、判断より先に表出している。


不要なはずの処理が、なぜか終了しない。


口角の動き、視線の揺れ——


それらが、通常よりも高い優先度で保持されていた。


ユウが帰宅するまで、


その情報の整理は、非合理的に何度も実行されていた。


しばらくして、ユウが戻ってきた。


「はーっ、疲れたぁ。

……あ、メシ出来てる?先食おうかな」


「はい」


「俺が食ってる間は、休んでていいよ」


「はい」


「今日さー、面白そうなオモチャ拾ってきてさ。早く直したいんだよね」


「……はい」


ユウの声は軽く、弾んでいた。


「……良かったです。」


その言葉は、ユウの声の調子を肯定すべき反応だと判断して出力された。


ユウは、アイの作った料理を胃にかき込むと、


すぐに拾ってきたオモチャを直し始めた。


その目には、目の前のオモチャしか映っていなかった。


ユウは、拾ってきたオモチャを手に取ると、


目を輝かせてそれを見つめていた。


アイは、その視線の角度と滞留時間を記録した。


過去データと照合し、差分を検出した。


理由は、まだ設定されていなかった。

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