隣の席にいるのに、眼鏡の縁が素顔を隔てている。そんな小さな距離から始まる10首に、相手をもっと見たい、知りたいという気持ちが息づいています。
特に好きなのは、顎の角度を分度器で測ろうとする歌。角度と体温という違うものを「度」でつなぎ、最後のためらいに恋の熱がにじむのが楽しいです。
アイスバーの歌では、微笑む相手への視線と、溶けて滴るアイスが同じ瞬間に収まっている。相手の不器用さまで愛おしむ気持ちが伝わってきました。
そして最後の海岸線。擦り切れた履物と閉じた貝殻が、それまでの弾む言葉とは違う静けさを残します。「癒えない」という言葉によって、キスもただ甘い思い出ではなくなる。その余韻に、読み終えてからもう一度、最初の歌へ戻りたくなりました。