第17話 メイドとナース

 マンションに着いたのは、22時を少し回った頃だった。


 6階で、エレベーターを降りる。


「じゃあ、俺は……ひとまず自分の部屋でシャワー浴びるよ」


「うん、……わかった。ていうか、本当に私の部屋来るの?」


 俺が返事する前にイツキが言う。


「そりゃそうだろってば! じゃあ、サンゴ、私も葉山くんの部屋でシャワー浴びるからあとでね」


「うん、わかった……ってバカ! イツキはこっちでしょ!」


「わぁぁぁ」


 水無瀬さんに引っ張られて611号室に連れていかれるイツキ。

 ……水無瀬さん、ノリツッコミしてたな。さすが、高校時代からの友人だけあって、いつもの水無瀬さんとはまた違った一面を見れた。


 俺は早速シャワーを浴びて、部屋着に着替える。

 なんか、女子の部屋に今から行くけど、何を準備していくべきなんだろう。


      〇


 ピンポ~ン。インターホンを押す。


 ガチャ。ドアが開いた。

 そこには、すっぴんの水無瀬さんがいた。


「あ、入って。待ってたよ。葉山くん」


 顔が赤いぞ。

 すでに飲んでいるらしい……。


「お、お邪魔します」


 玄関へ足を踏み入れた瞬間。

 ふわっと、甘い香りがした。


「…………」


 なんかヤバい。

 めちゃくちゃプライベートな領域へ踏み込んでしまった感じがする。


「見ないでね」


「え?」


「部屋」


「それは無理だろ!」


「部屋汚いからできるだけ見ないで!」


「それは無理があるって!」


……驚いたことに部屋の中には、俺が想像していた『水無瀬さんらしさ』がほとんどなかった。


 てっきり、もっとこう白を基調としたシンプルな部屋で、本棚には資格試験の参考書が並んでいて。机の上には仕事に使うノートや手帳がきっちり整理されている。

 ……そんな部屋を想像していた。


 だが――。


「……これ何?」


「ああああぁぁぁ!!!! 見ないでぇぇぇ!」


 メイド服がかけてあった。

 黒いワンピースに、白いフリルのエプロン。

 ご丁寧にカチューシャまでセットになっている。


「…………」


「…………」


 俺はもう一度見る。

 やっぱりメイド服だ。


「……水無瀬さん」


「な、なに?」


「これ何?」


「…………服」


「それは分かる」


「じゃあ聞かないでよ!」


 水無瀬さんが慌ててメイド服をひったくる。


「いや、なんでメイド服があるの?」


「…………」


「水無瀬さん?」


「……趣味」


「え?」


「だから! コスプレするの好きなの! 悪い!? 殺すよ!?」


 こ、殺す……。怖。

 しかし、意外すぎる。

 会社で見る水無瀬さんは、いつもきっちりしている。


 ブラウスにスカート。髪も整えて。誰に対しても崩さず喋る。

 なのに……コスプレ好きとは……思いもよらなかった。


「……他にもあるの?」


「え……ない。です……」


「今、間があったけど」


「ないです」


「敬語に戻ったけど」


「ありません」


「絶対あるじゃん!」


「ないってばァ!」


 すると、そこで風呂上りで、裸の上にバスタオルだけを巻いたイツキが出てきて、俺は思わず鼻血でも噴き出しそうになる。


「うおおっ!」


 イツキはまるでモデルが歩くような歩調で俺の前を横切っていく。風呂上りの湯気が俺の鼻孔(びこう)をくすぐった。


「……サンゴ、クローゼットの中にいっぱいあるよ」


 イツキがそう言うと、水無瀬さんが叫んだ。


「イツキぃぃぃぃ!!」


「チャイナ服もあるしね~ん。着てみてよ?」


「言うなぁぁぁ!」


「ナースも――あと、学生服もね……エロいよね~」


「イツキ!!」


 水無瀬さんが猛ダッシュでイツキの口を塞ぎに行った。


「…………」


 知らなかった。

 水無瀬さん思っていたよりずっと奥深い人なのかも……。


       〇


 数分後。


「…………」


「…………」


「…………」


 俺は床に座ったまま、目の前の光景を理解しようとしていた。


 水無瀬さんは――メイド服。

 黒いワンピースに、白いフリルのエプロン。頭には例のカチューシャまで装備している。

 しかも、それは……気づかなかったのだが、猫耳のカチューシャだった。

 まさかの猫耳メイドだったのである。

 可愛すぎるんだが……。


 そして、その隣には――。


「ふふっ。どう? 葉山くん。いい感じじゃない?」


 ナース服姿のイツキ。

 明るい髪色でナース。なんかそのアンバランスさが非常に色っぽい。

 また、短いスカートから伸びる太ももはすらっと長く、白い網タイツが似合っていた。


 で、二人ともなぜか俺の前で、ちょこんと正座していた。


「…………」


 なんだこれ。


 メイドとナースが正座して、俺を見ている。


 水無瀬さんは恥ずかしいのか、スカートの裾を両手でぎゅっと押さえながら顔を真っ赤にしている。


「……葉山くん……見すぎです」


「あ、ごめん」

 

 いや、見るだろ!!!!!!!!!!


 一方、イツキは楽しそうだ。


「ねえ、葉山っちょ」


「……は、葉山っちょ?」


「うん。私だけの呼び方だよ。でさ、今から私たちに何されると思う?」


「俺が聞きたいんですけど」


「ふふふ」


 イツキが意味ありげに笑う。

 すると水無瀬さんまで、恥ずかしそうに俺をちらっと見上げて――。


「……今日は二人から……だからね」


「何が!?」


「先週より……すごいこと、するかもよ?」


 イツキは意味ありげにほほえんだ。


「サンゴから聞いたよ。先週に君たち二人がしたこと……付き合ってもないのに……エッチなことしてんだねぇ」


「こ、こら、イツキ! うるさい!」


「…………」


 待て。


 俺は今から。


 メイドとナースに、いったい何をされるのでしょうか……????????

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る