花の消えた町には
緑だけが異様なほど深く息づいている──
その瑞々しさは
祝福ではなく
むしろ
何かを奪われたあとの
静かな〝傷痕〟のよう
古い信仰の名残
ひとの裡に棲むもの
人智の境を越えて忍び寄る怪異
それらが
夏の草いきれの奥で
ひそやかに絡み合い
どこか懐かしく
それでいて
肌の内側を
冷たく撫でる世界を形づくっている
恐ろしさの傍らには
不思議な可笑しみがあり
異形の気配のすぐ隣には
人の暮らしの温度がある
花と蝶
命と渇望
その美しい取り合わせが
仄暗い余韻となって残る──
幽玄な怪奇譚