第38話 殺戮の遊戯

 銀行の重い自動ドアが再び閉まると、そこに残されたのは血の池に沈む山田薬麿の亡骸と、乱雑に散らばった札束の山だけだった。

​ サイレンの音が遠くから近づいてくる。だが、警察が到着するより早く、死臭漂う現場へ足を踏み入れた者たちがいた。

 壇恵梨香だんえりか里見拓哉さとみたくや寺田大地てらだだいち――の3人だ。

​ 彼らは揃って八代やつしろにある大手製造業の派遣切りに遭い、明日をも知れない底辺の生活へと叩き落とされた者たちだった。世間から見放され、未来を奪われたという絶望と鬱屈の果てに、いつしか彼らは狂気に満ちた歪んだ境地へと辿り着いていた。

 ――人を殺すこと。それが、今の彼らにとって唯一の生き甲斐であり、退屈な現実を忘れられる極上のゲームになっていた。

​「なんだ、もう終わってんじゃん」

​ 寺田大地が血塗れの床に転がる札束を靴底で軽く蹴り飛ばし、冷ややかに鼻で笑う。その手には、返り血に濡れたナイフが無造作に握られていた。

 派遣の契約更新を一方的に断られ、寮を追い出され、所持金が底をついたとき、彼らは知ったのだ。 人間の命を奪う瞬間の圧倒的な優越感と、すべてを支配しているような強烈な全能感を。

​「狙い目はこいつだけじゃない。この街の人間は、みんな腐りきってるからな」

​ 里見拓哉が不気味に唇を歪め、銀行のカウンターの奥へと視線を巡らせる。

 その中心で、壇恵梨香は冷徹な瞳のまま薬麿の首筋から抜け落ちた血の跡を見つめ、陶酔したような吐息を漏らした。彼女にとって、命の灯火を消すことは、社会に対する最高の復讐であり、最も刺激的な娯楽だった。

 ​身寄りを失った父親の悲劇も、息子・鴉の死の真相も、彼らにとっては関係ない。

 ただ快楽のために命を刈り取る殺人ゲームのプレイヤーとして、3人はサイレンが近づく銀行のロビーをあとにし、新たな獲物を求めて夜の街へと溶けていった。

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