あたしは飛べた
まだ飛べないゆきちゃんへ
もしゆきちゃんがこの手紙を読んでいるのなら、きっとあたしはもう翼を広げ、あの空へと飛び立ってしまったのだろう。冬の冷たい日、指を絡めながら二人で何度も見上げた、あの空へ。
あたしは冬の空をよく思い出す。ゆきちゃんがそっと囁いてくれた言葉に、凍えていた心がどれほど温められたのかを思い出させてくれるから。
いつか、互いの手を強く握りしめて、すべてを背中に置き去りにして、あたしたちだけしか知らない、誰にも見つからない場所へ行こうと約束したよね。
なのに、ごめんね。心の奥で今も血を流し続ける傷を越えるだけの勇気を持てるようになる前に、あたしは飛び立ってしまった。自分なりの理屈のために、あるいは、それはただの身勝手な言い訳だったのかもしれない。
それでもあたしはきっと大丈夫だから。だから安心してね、あたしだけの大切なゆきちゃん。
ゆきちゃんがいない地平へたどり着くことになるのだとしても、ゆきちゃんが私だけに伝えてくれたあの「愛してる」は、ずっと胸に刻み続ける。
たとえあたしの影がこの世界から消えてしまっても、あたしたちの記憶だけは残り続ける。あたしたちがどれほど幸せに寄り添っていたのか、その証として。
ゆきちゃんがあの小さな通りを歩くたび、二人で腰掛けたあのベンチにそっと座るたび、あたしはきっとそこにいる。
けれどそれはもう、ゆきちゃんの心の中でぼんやりと揺れる、一つの古いフィルムのような存在でしかないのだろう。
でも、それでいい。
それだけで、もう十分なんだ。
だってあたしは、ようやく自分の翼を手に入れたのだから。
でも、ゆきちゃんだけは、どうか行かないで。
あたしみたいに、地平線の向こうへ逃げてしまわないで。
あたしがいなくなった日々の中で、ゆきちゃんはきっと俯いて、部屋の隅で声を殺して泣くのだろう。あたしのことを骨の髄まで憎んで、心を引き裂くような痛みとともに思い出すのだろう。
罵声にさらされ、容赦のない暴力に打たれ続けて、もう痛みに慣れてしまったはずの傷が、それでもまた膿み、何度でもゆきちゃんを内側から掻きむしり続けるのだろう。
それでもね、ゆきちゃん。
ゆきちゃんは、あたしなんかが見上げることしかできなかった、あまりにも美しい存在なんだ。
たとえ泥の中にまみれていても、何度傷つけられても、誰かに孤立させられて、心ない言葉を浴びせられても、あたしにはいつだって、誰にも届かない場所で咲いているゆきちゃんしか見えなかった。
きっと彼らは、ゆきちゃんを手に入れられないことを知っているからこそ、見下し、傷つけるんだ。
ゆきちゃんは、あたしだけのものだった。
静まり返った季節が過ぎ去れば、ゆきちゃんにもきっと、自分だけの翼が生えてくる。
でも、それはあたしが広げた翼じゃなくていい。
ゆきちゃん自身を強くして、大人にしてくれる翼であってほしい。
あてもなく漂っていた日々が終われば、暗く閉ざされた人生の中にも、小さな光がきっと見つかる。
そして、あたしがつけてしまった傷さえ、最初から存在しなかったみたいに、ゆきちゃんはきっと癒されていく。
あたしの小さなゆきちゃん。
ゆきちゃんは、何よりもかけがえのない存在だよ。
だから、自分自身を大切にして。
ゆきちゃんの中に、まだ少しだけ残っているあたしのためにも。
いつか、二人だけの美しい夢の中で、もう一度愛を囁き合おう。
互いを抱きしめて、この世界の踏みにじるような言葉なんて忘れてしまおう。
夏の風に溶けていく百合の香りみたいに、もう一度、ゆっくりと一つになろう。
そしてゆきちゃんが、この世界で叶えたかった願いをすべて叶えたその日には、あたしのところへ飛んできて。
もう一度、あたしたちは、互いだけのものになろう。
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