莉奈の彼氏と初対面するお母様と34話
それは我が愛しの愛娘莉奈と執事、メイド達との談笑中のこと。
「お母様。執事から聞いたのだけど、交際している男女は連絡先を交換するらしいんだ。一般常識だって言われた」
突然の爆弾を愛娘に投げられて、わたくしはコーヒーの持つ手が震えるほど驚きました。もう少しで顔にも出そうなぐらいには。
わたくしは平静を装いながら、彼女に『交際とは?』と聞きました。すると……
「言ってなかったけ? あたし、彼氏ができたんだ」
彼氏……莉奈の口から彼氏……? かれし?
「彼氏ってなにかしら? 成人式や結婚式で着ていくアレのことかしら?」
「奥様、晴れ着ではありません。彼氏でございます」
「そうだよお母様。最近バイトで屋敷に来ている彼がそうだ」
青天の霹靂とはまさにこのことでしょう。現実逃避したかったですけど、執事と莉奈に呼び戻されてしまいました。
愛娘によると明日、その彼氏を紹介してくれるらしいです。
わたくしはその夜、柄にもなく度数の高いお酒を呑みまくりました。信じられない、信じたくない。
「奥様、これ以上お飲みになさるとお身体に触りますよ? 明日莉奈様の彼氏様とご対面なさるのでしょう?」
何本か瓶を空にすると、執事が声をかけてきました。
「うるさいですよバカ! なにが彼氏ですかヒック、認めてないですからね! どこの馬の骨かわからない人に渡してなるものですか!」
「奥様の懸念は存じ上げております。ですが、少なくとも私はこの目、この耳で判断して彼が大丈夫だと判断しました」
「そもそも莉奈はまだ十五ですよ? 良家の娘が不純異性交遊なんてバレたら周りは大バッシングを浴びせますわヒック」
「確かにそれは懸念材料ですな。であれば周りの弱みを見つけて黙らせるかと」
さらっと敵潰す宣言をする執事。どうやら彼は莉奈の彼氏を取るらしい。
「奥様。女の子が生まれた時点で今日のような事になるのは想像ついたはずです。先に言いますが彼氏様は良い方ですよ。さすが莉奈お嬢様が認めたぐらいの男です」
莉奈が幼い頃。メイド達やわたくしが分担して育てていました。泣き声がそれはもう煩くて。早く大人になってほしいって思っていました。
でもいつからでしょうね。莉奈が大人っぽくなっていくのに素直に喜べなくなったのは。彼氏だって、わたくしの愛娘ですもの。すぐに出来るはずだからその時はパーティをしようって思っていたのに。
どんどん遠くに行ってしまうような。寂しいような感覚に今日は特になっているんです。
「これが。親鳥の気持ちなのね。執事、あなたも晩酌に付き合いなさい」
「……私でよろしいのですか?」
「いいのよ。今夜は莉奈の思い出を話したい気分なの。付き合いなさい」
これからの心配や、今までの莉奈との記憶。それらがほろ苦く混じった今夜を執事と過ごしました。
◇
あれから一睡も出来ずに彼氏が来る時間となりました。
何事も初対面が大事です。彼氏もきっと緊張しています。だから大人であるわたくしは威圧的な態度を取ってはいけません。笑って温和的に迎え入れましょう。
笑って、笑顔で……
笑顔ってどうやるんでしたっけ……
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