これは、できれば何も知らずに読んでほしい。
染み抜き屋がある屋敷を訪ね、依頼人の女性と話をする。
それだけの静かな話です。
蝉が鳴いている。
お茶を飲む。
亡くなった夫の話をする。
戦地にいる息子の話をする。
柱には、家族が暮らした跡が残っている。
派手なことは何も起きない。
なのに、途中のほんの一言で、それまで読んできた風景の意味が変わる。
最初から鳴いていた蝉まで、違う音に聞こえてくる。
私はこういう短編が好きです。
作者が恐怖を説明するのではなく、読者が自分で気づいてしまう。
そして気づいた以上、もう気づく前には戻れない。
最後に少しだけ、私は削りたいところがありました。
でも、それは作品そのものを否定するような話ではありません。
むしろ、そこまで言いたくなるくらい惜しい。
ランキングを眺めているだけでは、こういう作品を普通に取りこぼすんだなと思わされました。
見つけたので置いておきます。
読んでみてください。
2千文字にも満たない作品はネタバレしやすくレビューを避けがちなのですが。本作は物語だけのお話ではなく、その表現がとても素晴らしかったので、書かせていただいております。
本作の舞台は戦時中日本。
ストーリーとしては、染み抜き屋の主人公がお屋敷を訪ねるお話です。
その中でたびたび登場する言葉が、「しみ」です。
まるで"染み"のようですね
しみがあった
しみを抜いてくださった
しみのようだ
そのたびに、読者は「しみ」へ意識を向ける。
蝉の喧しい鳴き声の演出と絶妙な空白行が読者に夏の暑さに複雑な思考を停止させ、ますます「しみ」へ意識を集中させます。
そして終わった時ふと、「しみ」の意味を、その裏に隠された物語を考えさせられます。
お勧めです。