始めは、少し不思議なミステリーだと思っていました。
海辺のペンション。
どこか曖昧な記憶。
少しずつ積み重なっていく違和感。
「ここには何かある」
そんな感覚に引っ張られて読み進めていくのですが、この作品、後半に行けば行くほど感想が変わっていきます。
ミステリーとして気になっていたはずなのに、いつの間にか登場人物たちのことが気になっている。
みんな主人公っぽいんですよね。
そして、この作品の好きなところが雰囲気。
海の音やペンションで過ごす時間には、どこか静かで優しい空気があります。
だからこそ、少し不思議で、少し切なくて、それでも温かい。
さらに面白いのが、読み進めることで意味が変わっていくものが多いこと。
何気ない言葉。
何気ない行動。
何気ない場所。
最初に見た時とは、まったく違う意味を持って見えてくる。
「ああ、そういうことだったのか」
と分かった瞬間、最初からもう一度見返したくなります。
そして最後まで読むと、
「チェックイン」や「チェックアウト」という言葉すら、最初とは少し違って聞こえてくる。
誰かにとっては始まりで、
誰かにとっては別れで、
誰かにとっては、新しい旅立ち。
チェックインした覚えはない。
でも――
チェックアウトは、自分で選ぶ。
そんな物語でした。
※『第5話 来訪者』までのレビューです。
海辺の小さなペンションを舞台に、記憶を失った少女と謎めいたオーナー、そして訪れる宿泊客たちが織りなすサスペンスフルな人間ドラマです。
一見すると、美味しい食事や和やかなおしゃべりに満ちたスローライフのようでありながら、スマートフォンの電波すら届かない閉ざされた空間が、物語全体に言い知れない不気味さを漂わせています。
第5話での新たな来訪者の登場を契機に、これまでの穏やかな均衡が音を立てて崩れ、登場人物たちの間に隠された秘密や歪な関係性が少しずつ剥き出しになっていく展開は息を呑む面白さです。
穏やかさと緊張感が絶妙なバランスで同居しており、静かに浸食してくるような心理描写の巧みさに引き込まれます。
すべての謎が解き明かされたときに見える景色がどうなるのか、続きから目が離せなくなる一作です!!
ふらりと辿り着いた、海辺の小さなペンション。
涼しい風。
温かな食卓。
挽きたてのコーヒー。
そして、いつの間にか近くなっていく人と人との距離。
――こんな場所なら、もう少し泊まっていたい。
そう思ってしまう。
けれど読み進めるほど、胸の奥に小さな疑問が積もっていきます。
どうしてここへ来たのだろう。
どうして大切なことを思い出せないのだろう。
そして――
自分にとって、本当に「帰りたい場所」はどこなのだろう。
この物語に散りばめられた謎は、ただ真相へ向かうためだけのものではありません。
一つ思い出すたびに浮かび上がってくるのは、人が誰かを想う気持ち。
離れていても。
忘れてしまっても。
すぐそばにいなくても。
それでも、誰かを大切に想う気持ちには、人をもう一度前へ向かせる力がある。
それに気付いた時、皆さまにも、この物語の「鍵」がどこへ繋がっていくのかを、最後まで見届けてほしいと思いました。
『ペンションウミネコ』
もしあなたがここへチェックインしたなら――
あなたを呼ぶ声は、どこから聞こえるでしょうか。
大学生・英二が偶然たどり着いた、海辺にひっそりと佇む「ペンションウミネコ」。
穏やかでどこか懐かしい。けれど、少しずつ「何かがおかしい」と感じ始める。小さな違和感が、少しずつ繋がっていく物語です。
【穏やか。けれど、どこか不思議な雰囲気】
涼しい海辺の風。泊まりこんだみんなと囲む食卓。挽きたてのコーヒー。
ペンションウミネコで流れる時間はゆったりとしています。
けれど、そこには記憶にまつわる小さな違和感がある。
「居心地がいいのに、何かがおかしい」
そんな独特な雰囲気が魅力的な世界観です。
【少しずつ繋がっていく謎】
失われた記憶。
突然のチェックアウト。
何かを知っていそうな人たち。
散りばめられた謎が、読み進めていくと少しずつ繋がっていきます。
登場人物たちを追いながら、こういうことかなあ、と一緒に考えていく流れが楽しいです。
【心に残った名台詞】
――お前の“鍵”はなんなんだ。⋯野宮。
冒頭に置かれたこの言葉。
はじめは意味すらわからないけれど、読んでいくとこの物語そのものを表しているように感じる。
さて、鍵を開けた先に待つ結末は、どうなるのでしょうか。
穏やかで少し不思議な世界に浸りながら、その先に隠された真実を追いかけたい。そんな方にオススメしたい作品です。