中章 こんにちは。その6
その時だった。
ザッ!
「!!」
私とイノシシとの間に、何者かが滑り込んでくる。
(誰…………!?)
その人は背中から大剣を抜いて、そして構えた。
イノシシはお構いなしに、突進を続けている。
「あっ、危な……!!」
ドッ!!と音を立てて、大剣とイノシシが正面からぶつかった。
その人は、何と片手で大剣を軽く持っていて、しかも魔力を使っている様子は微塵も無い。
イノシシの突進の衝撃で、その人のフードが取れた。
現れたのは、綺麗な大人の女性の顔。
綺麗な中にも精悍なかっこよさがあり、いかにも戦士と言った印象を受けた。
身長も高い。
高めなノクスよりも、さらに高い。
平均的な私と比べると、結構な差がある。
髪は、金色。
耳のあたりだけ少し長めなものの、他は私よりやや短めくらい。
女性はマントを翻しながら、片手で持った素の大剣でイノシシの突進を受け止めている。
それも……正面から。
「す、凄い…………」
「グルルルルルルル…………!」
イノシシが、一旦後退しだす。
体勢を整え、助走をつけ、土煙をもうもうと上げ、再び突進を繰り出す!
女性は、イノシシを再び正面から迎え撃つ……ように見せかけて。
「えっ」
女性は私を左脇に抱えると、イノシシの攻撃範囲から離脱。
そして。
ドッガァン!!と音がするなりイノシシは倒れ、動かなくなる。
イノシシの目の前には、私の逃げ道を阻んだ、あの太い木がそびえ立っていた。
女性は、私を静かに地面へと下ろす。
私は一言挨拶とお礼をするために、女性の正面に回った。
「あ……あの…………こ、こんにちは……ありがとう、ございました……助けていただいて」
「いいんだ、それは気にするな。けれど……あの戦い方は、無謀だぞ」
「は……はい……良く、分かりました……」
そう言って、下げていた頭を上げたとき。初めて女性と目が合う。
そして、気付く…………この、人…………私と、似た波長を感じる……。
「君も、光属性なのだな」
「やっぱり、あなたも……?あっ、私は、ルミ……ルミ・ノワーレと言います……」
「ああ……自己紹介が遅れたな。私はヴェリア・フランマ。冒険者で、剣士だ……よろしくな、光の卵」
そう言って握手を求めるヴェリアさんに私は応じた。
彼女は、顎に手をやり、しばし考えるような仕草をした後、言った。
「君と私は似ているかもしれない……ああ、同じ光属性というのは当然だけどな。どうだ、君さえ良ければ、少し稽古しないか?」
「えっ……いいんですか?」
「勿論だ。さっきの戦闘。あれでは、死ぬのも時間の問題だ」
「うっ…………」
その通りだった。
私は……何としても、ノクスに再会しなきゃいけない。
そのためには。
(……稽古、つけてもらおう。このヴェリアって人、かなり強いし)
私は、顔を上げた。
「……はい、よろしくお願いします…………」
「踏み込みが浅い!もっと大胆に!」
「はい!」
「魔力を込めるときは、ぶれてはダメだ!」
「はい!」
「まっすぐなイメージを強く持て!光属性なら、尚更だ!」
「はい!」
「背後に良く気を配れ!敵は、ここを狙っている!」
「はい!」
「そろそろ一回、休憩を挟むぞ」
「はい!」
ヴェリアさんの稽古は、実践、模擬試合がメイン。
口調は厳しめなようで、その実、私のレベルに合わせた指導をしてくれているみたい。
「光の卵、君は弱い……初歩からだな。初級レベルですら、君にはまだ早すぎるだろう」
稽古の直前、彼女はそう言ったのだった。
(はは、その通りだ……私は、ノクスと違って、弱いし、内気だし……)
だからこそ……頑張らなきゃ。
何度目か分からない決意を固めて、拳を握りしめた。
隣に腰を下ろし、手持ちの水筒から水を飲んでいるヴェリアさん。
彼女は、私の頭の方をじぃ、っと見つめてから、口を開く。
「君は、黒髪なのだな」
「……そうです。見たとおり……」
「黒髪…………か。私の幼馴染。彼女も、黒髪だった」
黒髪は、世界的に言っても珍しかった。
確か……一割に遙か満たない。
一割のさらに十分の一くらいだったかな。
思わず、自分の髪をつまみ上げて、黒さを確認してしまう。
「光の卵。君は、光を持つのに漆黒の髪とは。どちらも珍しいだけに、因果だな?」
「…………この髪の色通りの、性格ですから」
この黒髪は、あまり好きじゃない。
暗くて内気な自分を、象徴しているみたいだから。
小さい頃は、この髪の色をからかわれたりもしたし。
その度に、ノクスが庇ってくれたな……。
私は、金髪の方が良いと思う……でも。
(私は、金髪が好きなんじゃなくて……ノクスの髪が、好き)
もしノクスと私の髪の色が逆なら……私は、黒髪が好きだったと思う。
そんな事を考えていると、ヴェリアさんが言った。
「何を言う?漆黒の髪は、とても綺麗だぞ」
「……ありがとう、ございます」
褒めていただいたので、一応お礼をしておく。
「まあ、私の幼馴染は、長くて豊かな黒髪だったけどな。綺麗だった……君よりも」
「……………………」
そんな勝手な事を言って、遠くの空を見るヴェリアさんに、正直若干いらつく。
(お礼、言わなきゃ良かったかな……)
稽古をつけてくれるのは、ありがたいけど。何だか、失礼な人だな。
「光の卵。君は、何故旅に?」
「……幼馴染を追ってるんです。彼女、闇属性を発現して…………」
その時。
ヴェリアさんの目が、光った気がした。
「その子の居場所、君は知っているか?」
急に立ち上がった彼女は、私を見下ろす。
太陽は、ヴェリアさんの背の方。……影になって、なんだか少し怖い。
思わず圧倒されて、声が上手く出なくなる。
長い、一時の沈黙。
私は何とか絞り出した頼りない声で、言った。
「私も……知らないから、探しているんです」
「そうか」
ヴェリアさんは水を飲みながら、歩き出す。
「光の卵。光を持つ者なら、肝に銘じた方が良い。光の魔力は刃になる……殺す刃に」
「…………ヴェリアさん、光の魔力で誰かを……?」
「さぁな……昔の事だ」
「…………」
軽く答えているけれど……きっと何かあったんだろう。
そう思って思わず黙り込んでいると、彼女は背中の大剣を抜き取った。
「さあ、稽古の続きをするぞ。立て!」
「……ありがとうございました!」
初歩的な戦闘や、光の魔力の扱いについて、一通りの事は教えてもらえた。
短時間だったけど、かなり収穫の多い濃密な時間だったと思う。
「気にするな、同じ光属性のよしみだ」
「でも、とても為になりましたから」
「実はな、噂を聞いたんだ。光属性の若い旅人が居る、と」
「えっ」
それって……どう考えても私しか、居ない。
噂になってるの?ちょっと……恥ずかしい。
「それで、どんな子か気になってな」
「そうなんですね……」
十年に一人しか現れないはずの、光属性。
その先輩に運良く助けて貰って、稽古までつけてもらうなんて、かなり都合のいい話だ。
ヴェリアさん自ら、意識的に私に関わってきたと言うなら、納得だった。
「実際、君に会ってみて良かったよ……うん。これなら、大丈夫そうだ」
大丈夫って、何が……?
ああ、この人なりに、心配してくれてるのかな?
確かに、稽古前と比べたらだけど……だいぶ動きが良くなったと思う。
「ヴェリアさんの指導のおかげです」
「ああ、それなら良かった……では、そろそろお別れだな」
「本当に、お世話になりました!」
私は深くお辞儀をして、見送る。
ヴェリアさんは歩き出す。
右手だけ高く掲げてひらひらと振った。
このまま見えなくなるまで見送ろうと、背中を見つめていると。
彼女は突然、立ち止まった。振り返ることは、せずに。
「これだけは、言っておく。光と闇は、一緒に生きられない。光と闇は世界を、お互いを………………壊す」
突然の発言に、思わず口をポカンと開けてしまう。
今の私は、とにかくマヌケな顔をしているはずだと思った。
(今の……どういう、事?)
意味が、良く分からない。
でも、一つだけ言えるのは。
(ノクスは、強い太陽だから。闇には、きっと飲まれない)
太陽のペンダントを、指でなぞる。
私に出来るのは……ノクスを信じて探し続ける事だけだ。
ヴェリアさんの姿は、いつの間にか見えなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます