第6話 5月3週目 ブラッシュアップしましょう!
▪︎アジェンダ : クイズ/アプリの素案確認
▪︎議事録担当 : 山田
水曜15時。10人部屋の会議室に、いつものように5人が座っている。
『社内防災委員ゴレンジャー』の第6回チームMTG。
今日の議題は先週持って帰った各自のタスクについての進捗確認。
メインは赤城さんと、私、山田だ。
「お疲れ様です。今日のアジェンダは、赤城さんに持ってきていただいたクイズの素案の確認と、私が作ってきたアプリの仕様の確認になります。
先にアプリのイメージがあった方がみなさん想像しやすいと思いますので、私の方から説明しますね」
私は作ってきたアプリ仕様書をZoomに投影した。
IT部門にいる同期に頼み込んだり、AIに教えてもらったりしながら、私としては珍しく遅くまで残業して作ったものだ。
例年通りだと、次のFA募集は6月頃に始まる、10月異動の分になるはずだ。決まるのは9月。普段の予算課の仕事は、ミスがないことが最低ラインで、大きく実績として書けるようなことがない。私のFAは、このイベントの成功にかかっていると言っても過言ではないのだ。相応の気合いも入るというものである。
とはいえ、経験もない素人が1週間で作ったもので、全く自信はない。
まずはこれがどこまで通用するのか見てもらわないことには話が始まらない。
基本的には前に桃瀬さんに見せてもらったアプリがイメージのベースになっている。
あれはWEB上で動くものだったから、今回も同じように。また、社内を巡るスポットについては、前回私が作っていたスタンプラリーの資料を転用した。
あとは、QRコードを読み込む画面に、クイズの表示画面。○×や選択肢で回答する画面。デジタルスタンプが貯まっていくイメージ。
そこまでを説明して、ちらっと桃瀬さんを見る。
「いかがでしょうか……?」
「うーん、まあ、思ったよりちゃんとしたの持ってきましたね。意外でした」
期待値が低かったとはいえ、相変わらずひどい言われようだ。
「ここから詰めるとこも多そうですが、ひとまずはこんなもので大丈夫です。こっちも手を動かせるとは思います」
なんとか及第点をもらえたらしい。
他の人からも特に質疑はなく、小金井さんからは「山田さん、すごいじゃん!がんばったね!」と労いをもらった。褒めてもらえて素直に嬉しい。
「さっきのも、桃瀬くんなりに褒めてるのよ。そうは聞こえなかっただろうけど」
そんなまさか、と桃瀬さんを見ると、そしらぬ顔をしている。本当に真意がよくわからない人だ。
「あとでQA表送るんで。細かい質問はそこで解消していきましょう」
「は、はい!よろしくお願いします!」
桃瀬さんとは別で仕様を詰めていくことになりそうだ。頑張らないと!
「では次に、赤城さん、よろしくお願いします」
「はいはーい、じゃあ画面投影するね!」
赤城さんが明るく返事をして、Zoomに画面を投影した。
そこにうつっていたのは、大量の文字、文字、文字。20ptくらいある大きな文字が、切れ目なしにずらっと並んでいる。
文字の洪水に圧倒される4人を尻目に、赤城さんは嬉々として説明を始めた。
「とりあえず、災害発生時の社内ルールから、このビルの規定や防災の一般常識的なものまで、クイズになりそうなもの洗い出してみたんだ!なんと、138個あります!」
お、多過ぎる……!
会議時間では半分も確認できないだろう。青山さんは頭痛がするように指を眉間に当てている。
「赤城さん、これすごいけど、頑張りすぎ。これじゃ多過ぎて全部は見切れないですよ。赤城さん的おすすめはどれかあるんですか?」
すかさず、小金井さんがフォローを入れてくれた。言い回しといい、さすがの気遣いである。夏を思わせるような気温の今日は、クリアなピアスが涼やかに揺れている。
「おすすめかあ、全部自信作ではあるんだけど、やっぱりこれかな!」
赤城さんが画面をスクロールして、クイズを表示した。
<問題>
当社が入居するビルの1階にある裏口扉は、施錠される時間が何時と定められているでしょうか?
<選択肢>
① 18:00
② 20:00
③ 22:00
④ 24:00
私はいつも正面ロビーしか使わないから、裏口がどこにあるのかもわからない。
これは結構マニアックなのでは……?
「正解は24時、ですよね」
青山さんが事もなげに答えた。
「おお、青山さん、正解!よく知ってたねえ」
「正面ロビーが22時で閉まっちゃうから、帰るの遅くなった時は裏口使ってるので。けど、いつもギリギリで間に合うように走ってるんで、もうちょっと遅くならないですかね……」
企画課は多忙とは聞いていたけど、青山さん、そんなに遅くまで残業をしてるのか……。
「でも赤城さん、これ防災関係あります?」
小金井さんからの疑問。たしかにそうだ。
「災害がいつ起きるかなんてわからないから、出入口の情報は知っておいた方がいいと思って!」
「さすがに、災害が起きた時は正面ロビーも開放するんじゃないかしら……?」
ああそっか!たしかに!と赤城さんは膝を打った。
うーん、赤城さんの自信作がこれとなると、なんだかクイズに偏りがあるような気がしてくる。
たくさん考えてきてくれた赤城さんには申し訳ないけど、ちょっと提案してみよう。
「赤城さん、こういうのもあっていいとは思うんですけど、もう少し簡単に答えられるように、さっき言ってくれたみたいな『災害発生時の社内ルール』とか『防災の一般常識』をメインにしませんか?」
「えー?そんな簡単なのでいいの?うーん、たぶん40個くらいはあると思うけど……」
じゃああとの100個くらいはさっきみたいなクイズなんですね?
「赤城さん、よかったら来週までに、そういう系統のクイズをピックアップしてきてくれますか?
難易度については、回答する時に選択肢だけじゃなくて文字入力による回答も混ぜたら、難しくはなると思いますが、いかがでしょうか」
青山さんから代替案が出た。
私の作ってきた仕様書には文字入力なんてなかったけど、それはたしかに良さそうだ。
桃瀬さんは、小声で「えー……文字入力式はテストパターン増えるからヤダ……」と呟いている。あなたの声、小さいけど低くて通るので丸聞こえです。
「なるほどね!そうやって回答方法で難しくするのもありかあ。じゃあ、その方向で見直してくるよ!」
「桃瀬くんも、ファイト!オー!」と、赤城さんが明るく腕を突き上げた。
「桃瀬くん、諦めな」と小金井さんが桃瀬さんを宥めている。桃瀬さんはまだぶつぶつ言っているけど、会議終了の時間が迫り、なし崩し的にその案が通ることになった。
桃瀬さん、ご愁傷様です……。
今日の会議も無事……無事?に終了して、いつも通りに青山さんが真っ先に会議室を退室し、赤城さんと小金井さんも会議室を出ていく中、とろとろと出口に向かっていた桃瀬さんに私は声をかけた。
「桃瀬さん!あの、明日のお昼って予定ありますか?」
意を決して桃瀬さんに尋ねる。
この前の、『奢ってください』の件だ。
さすがに夕飯とかは勇気が出ないし、ランチくらいならごくたまに男性の同期も交えて行ったりもするし、と、苦肉の策でそう声をかけた、の、だが。
「……?ありませんけど。仕様書のことで何かわからないことでも?」
「えっ?いえあの、一緒にランチでもいかがでしょうか、と……。
あれ?あの、桃瀬さん言いましたよね?今度奢ってください、って……」
あれ?思ってた反応と違う。
桃瀬さんはぽかんとした顔をして、いつもの低い声で、「あー……」と呟いた。
「缶コーヒーくらい奢ってくれるのかと」
「缶、コー、ヒー……?あっ」
理解した瞬間、頭のてっぺんまで一気に熱が駆け上がった。
ごはんの約束とかじゃなくて!缶コーヒーでも奢ってほしいって、そういうこと!?
うわあー!!!わざわざ念押ししてくるから、完全にごはんだと思い込んでた!自惚れが過ぎる!そうだよそんなわけないじゃん!!
両手で頬を押さえる。絶対今顔が赤くなってる!
「……ふっ」
笑われた!?もう生きていけない……とりあえず明日から在宅勤務にさせてもらおう……。
桃瀬さんはそんな私を見て、口元に手を当て、まだ浮かぶ笑みを押し殺しながら言った。
「じゃあ、明日行きましょうか。メシ。割り勘でいいですよ」
「……えっ」
「11:45に裏口扉に集合で。よろしくお願いします」
「えっ……は、はい!?」
言い残して、PCを小脇に抱えてすたすたと1人会議室を後にする桃瀬さん。
残された私は広い会議室で1人、頭を抱えた。
……なんだあの人。なんなんだあの人。
誰か助けてー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます