第二十話

その娘は賑やかな学食内で、独自の世界を纏っていた。

なんというか、真夏の日差しの中で雪が降っていると言うか。


「よお。なんかいいバイト、あるって聞いたよ?」


隣に座るなり切り出す。

勘違いなら、それでいい。

しかし、この娘にこびりついた呪いの残滓が、全てを物語っている。


「は? あんた誰?」


いいリアクションじゃないか。


「あんたに五十万払った女の話、だよ」


娘の箸が止まる。


「……知らない」


「そうか。でも男の方は口が軽かったな」


娘の肩がぴくりと震えた。


当たりか。


「洗いざらい話してもらおうか? それとも、まだしらばっくれるつもり?」


畳み掛ける。


あと一歩だ。


娘はがしゃんとトレイをテーブルに乱暴に置く。

そして立ち上がる。


あらら、失敗か?


「十分後に、屋上で」


小声で言うと、すたすたと歩き去ってしまった。


十分もあれば食い切れるな、A定食。


すっかり冷めてしまった生姜焼き定食を頬張る。


意外と美味いな、ここの学食。


§


きっかり十分後、本校舎の屋上に登る。


誰もいない。


あ、灰皿がある。


ポーチから煙草の箱を取り出そうとした、その時。


「来たのね」


さっきの女学生が声をかけてきた。


仕方ない、後で吸おう。


「で、黒幕は? 面識あるんでしょ」


あえてトップから聞いてみる。


「一度会っただけ。名前は知らない」


あら、つれない。


「そいつの居場所は?」


地図データを見せてくる。


「今はここ。でも、これから行っても多分無駄」


赤いマーカーが点滅している。


「ここから逃げるとしたら、次はどこ?」


「わからないわ。池袋の隠れ家はもう使わないでしょうね」


うん、これ以上の情報はもう無理かな。


撤退することにした。


「わかった。ありがとな」


言って背を向ける。


「ああ、それと」


彼女が言う。


「私、一回の配信で百万貰ってたから」


おいおい、金かけてんな。首謀者。


色々考えて頭が痛い。


このまま帰るつもりだったが……。

灰皿までふらふらと歩き、ベンチに腰掛けてロンピーを一本咥える。


愛用のオイルライターをかきん、しゅぼっ。


もうiQOSにも慣れたが、やっぱ、紙巻きの方ががつんと来るな。

おかげで頭が冴えた。

ほいじゃあ行ってみっかな。

黒幕の所へ。

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