天使の弁護人 その16. 盾になって生かすべきだ
カーテンの隙間から差し込む朝の光に、キッチンからただようコーヒーの香り。
零は重いまぶたを開けた。
「おはよう、零。グッスリ眠れたみたいだね」
鼻歌まじりにトーストを皿に並べるRayを見て、
昨夜の出来事がよみがえると、一気に現実に引き戻される零。
「まだいたのかよ……」
背中の翼は、昨日よりも小さく、コンパクトに折りたたまれている。
白いワイシャツ姿のRayは、行儀のよいお坊ちゃんのようでもあり、少女だと言っても通じるほどに中性的だ――かつて鏡の中で見た、もっと純粋だった頃の自分。
「すぐに出て行くよ……」
長いまつ毛を伏せ、コーヒーを入れながら、Rayはフフっと笑った。
「無罪判決を勝ち取ったら、ヒカリちゃんといっしょにね」
ウィンクとともに首をかしげる仕草は、俺がよく、店で客の女の子たちやるやつね。
「天使は、勝手に人の家のものを食べるのか」
冷めた思いをかき消すように、零はベッドからはい出てトーストにかじりついた。
三日三晩の執拗な取り調べから解放されたせいもあって、何のことはないトーストにさえ目尻が熱くなった。
「天使は食事なんてしないよ……
それより零、これを機会に、お酒はやめることだね」
言いながらRayが勧めるコーヒーを飲み干した零だが――
ふと顔を上げると、シンクに空の酒瓶が並んでいる。
(やられた!)
苛立ちと非難の声が上がる前にと、Rayが声を上げた。
「さぁ零、作戦会議だよ。スマホを開いて!」
「……」
「だいじょうぶ、組織からの連絡はブロック設定済み。彼らが直接来たら……それはチャンスに変えればいい」
「勝手に進めるな」
零は窓際に立ち、カーテンの隙間から外を確認した。
まだ取材陣がうろついている――少なくとも顔見知りの組織人はいない。
だが、誰が刺客かなんてことはわかりようがない。
「組織にとっちゃ、俺たちなんて消してしまえばすむ話だ。
ヒカリが自白したのは、俺を守るため。
ここでヘタに動けば、結局ヒカリを守れない」
Rayの銀色の目が、見開かれた。
「自分の魂を裏切って、死んだように生きるのが、零の望み?」
「何とでも言え。俺は、こうまでして俺を守っているヒカリを全力で守る。盾になって生かすべきだろう」
「わかりました。やっぱり零の『耳』、壊れてるんだね。
使い物にならない相棒なんて、こっちも要らない」
Rayはすでに玄関に立っていた。
クローゼットから持ち出した零のジャケットを羽織っている。
「おい、外に出るつもりか?」
「地上ではちゃんと『人間』のふりをするよ」
「Ray、頼むから待ってくれ……」
銀の瞳を揺らしながら、Rayの腕をおさえて、頭を下げる零。
「ことを荒立てたら、ヒカリの身に何が起こるか……協力するから、騒ぎにならない方法でやってくれ。頼む」
「わかったよ」Rayはジャケットを脱いで言った。
「それじゃ零、顔を洗って、食事を済ませて。
それから、第一回の作戦会議をはじめよう。資料はスマホに送付済みだ」
(つづく)
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