第5話 一人の飼い主と二人の妖精① 選ばれない方

主人は、妖精を二人飼っていた。


一人は、長い髪の女の妖精。


もう一人は、自分。


同じ妖精でも、扱いは違った。


⸻


夜になると、決まって呼ばれるのは彼女だった。


扉の向こうで笑い声が聞こえ、


やがて、ベッドが軋む音が続く。


聞きたくなくても、聞こえる。


耳を塞いでも、意味はなかった。


⸻


朝になると、彼女は何事もなかったように笑う。


「おはよう」


悪気なんてない。


ただ、選ばれているだけ。


自分は選ばれないだけ。


それだけの違い。


⸻


それでも、主人のことが好きだった。


恋愛対象になれなくても、


そばにいられるなら、それでいい。


主人に名前を呼ばれるだけで嬉しくて、


喜んでくれるなら、何でもした。


酒を運び、


客の相手をし、


掃除も、買い出しも、進んでやった。


「助かった」


主人が、ふと笑ってくれた。


それだけで、


しばらく何もいらないと思えた。


⸻


ある夜、主人が酔って帰ってきた。


彼女は外の仕事でいない。


珍しく、自分が呼ばれた。


胸が跳ねた。


もしかしたら、と思ってしまった。


⸻


部屋に入ると、主人はベッドに倒れ込み、


「悪い、水くれ」


と言った。


それだけだった。


水を渡すと、そのまま眠ってしまう。


呼ばれた理由は、それだけ。


⸻


布団をかけ直しながら、気づく。


期待していた自分が、情けなかった。


それでも。


眠る横顔を見ていると、


離れたいとは思えなかった。


⸻


部屋を出るとき、小さく呟く。


「……おやすみ」


返事はない。


それでもよかった。


選ばれなくても。


そばにいられるなら。


それでいいと、


何度も、自分に言い聞かせていた。

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