第19話 砂浜に二人


灰になったガラスの残骸を、波が洗い流す。


そして、その中から、青色の宝石が出てきた。


丸く、透明ではない、青い宝石。一色ではなく、キラキラと、斑に輝く金色が入っている。


俺はそれを拾う。


コレで2つ目だ。


指で摘んで見ていると、俺の手が、裂けた。


人差し指と中指の間が、バックリと裂け、


宝石はその中に落ちていった。


そして裂け目はもとに戻った。


マスターメビウスが食べたのだろう。もうこの程度では驚かなくなっている。


俺は振り向き、AKの元に向かう。結晶の壁はもう光に戻って消えている。


裸足のまま砂浜を歩く。ペタペタと音がなる。


「大丈夫か?」


俺はAKに声をかける。AKの服に滲んだ血が、渇き、固まっている。AKが動くと、パリパリと剥がれ落ちる。


「一十の方こそ、ボロボロだよ。」


ま、そうだな。二回も戦って、服を着替えてねぇ。俺の学生服も帽子も、ボロッボロになっている。


汗と血と、海水と砂にまみれて、笑えるほどに。


しかも裸足だ。至れり尽くせりだ。


AKは俺の左手を指差し、おそるおそる聞く。


「その手、大丈夫なの?」


ガラスの刀を受けた左手は、手のひらから肘まで、切れている。


が、既に血は止まっているし、再生も始まっている。


「悪魔と合体してる時に出来た傷は、そのうち治るんだ。痛みもあんまりねぇ。痛い事は痛いがな。」


左腕の服を捲って見せる。


傷はもう半分ほど癒着している。


あとは残るが。


「それよりも、お前の傷は大丈夫か?」


「大丈夫だよ。もう痛くない。」


「痕になるかも。」


「気にしないよ。」


ずきん、と胸が痛む。


巻き込んでしまった。傷つけてしまった。という罪悪感。


AKはそんな俺の表情を読み取ったのか、視線を外し、話題を変えた。


「ねぇ、ここどこなの?地球の反対?」


「さぁ、わからない。砂丘がある。鳥取とか?エジプト?」


どでかい砂浜。でっかい砂丘。そして人がいない。


「マスターメビウス、家に帰してくれねぇか。」


・・・答えない。


「マスターメビウス、ここはどこだ?」


・・・答えない。殺すぞマジで。


今、俺達には一つ大きな問題がある事に気づいた。


・・・どうやって帰るか、だ。


まずここはどこなんだ?




日もくれた夜空の下。ペタペタと海岸を歩く。AKと二人で。


「ほんとに、悪魔が居るんだね。」


AKが後ろから話しかける。


「ああ。」


・・・会話はそこで終わる。


また、波の音と、足音だけの時間。


ぺたぺた。ざざー。ざざー。


気まずいぜ。と思った時、ぐっと腕を引っ張られた。


俺は思わず姿勢を崩し、尻もちを付く。


濡れた砂から、水が染み込んでくる。冷たい。


バシッと、何かが俺の顔に当たる。


「うぶっ」


靴だ。ローファーだ。


AKのだ。


顔を上げると、また何かが顔に当たる。


バサリと、した感触。


なんだ?と思ってみると、制服だ。


続いて、ぱす、ぱすと、何か二個投げつけられた。


・・・いやまてよ。


バシャバシャと音がする。


「まて、まてまて、お前何やってんだ。」


確かに、今日は新月だ。暗い。暗いが何も見えねぇわけじゃねぇ。空は星明かりで、ビカビカに光っている。


頭に被さった布をどけ、視界を開けると、AKは、海に入っていた、と言っても腰ぐらいまでだが。


そして、裸だった。


「お前何やってんだよ。」


「気持ちいいよ。入ろうよ。」


確かに見えるわけじゃない、がみえてないわけでもないぞ。


星空の光を海面が反射し、AKの肌が暗く青に染まる。


ああ、綺麗だな。と思った。


AKの長い髪が体に張り付き、体の形を、ハッキリとさせる。


・・・俺は、俺も服を脱いだ。


全部だ。


確かに、俺はボロボロで、ドロドロで、風呂に入りたいとは思っていた。


裸になり、海に向かい歩く。冷たい。いや冷たいぞ。


「良く入れるな。冷たいぞ。」


震えながらAKのいる場所に近づく。海はどこまでも浅く、座っても胸のあたりまでしか深さがなかった。


AKは浅い海で、手足を伸ばし、仰向けになって浮いている。


俺も真似して、浮いてみる。


「すごい綺麗だよね。星。」


AKにそう言われ、俺も星を見る。


確かに綺麗だ。東京に居た頃には、こんな星は見たことがない。


ゆりかごのように、ゆらゆらと波のリズムが体に浸透していく。


素っ裸で海に入るのは、まぁ、確かに気持ちいいとは思ったが、


AKがここまで大胆なやつだとは知らなかった。学校では真面目な感じなのに。意外だ。


「一十はさ・・・」


AKが何かを言おうとした時、大きな波が来て、俺達は思いっきり海水に揉まれ流され、砂浜に打ち上げられた。


「がふぁっ」


「きゃっ」


せっかく洗い流した体が、また砂だらけになった。


特に髪の長いAKは髪まで砂だらけだ。


俺達二人は、お互いのみっともない姿を見て、


笑った。




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