第三話 ヴァンが誘われた日

 ギルドの掲示板前で、見知らぬ男がヴァンに声をかけているのを見かけたのは、ある依頼帰りのことだった。


「あんた、うちに来ないか。Sランクパーティーで、腕利きの戦士を探しててな」


 男の口ぶりからして、それなりに名の知れたパーティーのリーダーらしかった。


「悪いが、間に合ってる」


 ヴァンは、特に迷う様子もなく、そう答えた。


「もったいないと思うがな。あんたの腕なら、うちでもっと上目指せるぞ」


「今のとこで満足してる」


 それだけ言うと、ヴァンはさっさとその場を後にした。俺は、少し離れた場所から、その一部始終を見ていた。


「なあ、今の話」


 追いついて、俺はヴァンにそう声をかけた。


「なんだよ」


「お前、誘われてただろ。もっと上のパーティーに」


「ああ」


「断ったのか」


「断った」


 あまりにあっさりとした返答に、俺は少し驚いた。


「なんでだよ。お前の腕なら、確かにもっと上でもやれるだろうに」


 ヴァンは、少し考えるような間を置いてから、いつもの淡々とした調子で答えた。


「今のパーティー、居心地悪くないから」


「そうか!」


 その一言に、俺は思わず声を弾ませた。


「まあ、俺が仲間思いにやってきたのが、伝わってるってことだな」


「……そういう話じゃないけど」


 ヴァンは、それだけ言うと、それ以上は説明しなかった。俺は、その言葉の続きを深く聞くこともせず、なんとなく満足した気分のまま、ギルドへの帰り道を歩いた。



 その夜、酒場で、ロウにこの話をしたところ、ロウは少し呆れたような顔をした。


「ヴァンが断った理由、たぶんガイルのことじゃないと思うけど」


「じゃあ何だよ」


「単純に、環境変えるのが面倒なだけかもしれないし、他に理由あるのかもしれないし。分かんないけど、少なくとも、ガイルが思ってるような理由じゃない気がする」


「お前、たまに冷めたこと言うよな」


「事実を言ってるだけ」


 俺は、その言葉に、特に深く傷つくこともなく、軽く笑って流した。ロウは昔から、こういう風にひねくれたものの見方をする奴だ。


 実際のところ、ヴァンがなぜ、あの誘いを断ったのか。その本当の理由を、俺はまだ、知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る