冒頭の数行で、彼女はもうホームの先端に立っています。そこから「三十分前」に巻き戻る。結末を先に手渡されて、読者は理由のほうを逆算しながら彼女の一日をたどることになります。
いちばん印象に残ったのは、彼女を追い詰めたのが、彼女に向けられた言葉ではないところでした。深夜の無人駅で、たまたま居合わせた二人の青年が話している。片方が「どんだけ勉強だけできても、それだけじゃ人生なんも面白くねえ」と笑う。説教でも忠告でもない、ただの世間話です。でも「勉強さえできればまともな人生が送れる」という一本の柱だけで立っていた子には、それがいちばん深く刺さってしまう。
誰かに面と向かって否定されたのなら、言い返すこともできたはずなんです。自分に向けられていないから、受け取るしかない。この距離の置き方が、とてもうまいと思いました。
第1話の題が「根を張れなかった一輪の花」で、彼女の名字に「根」の字が入っているのも、読み終えてから気づいてしばらく考えてしまいました。
自分を測る物差しが一本しかなかった時期を覚えている方に。
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