第2夜 クネクネとAI
夜更け。
部屋の隅で、空気が――揺れた。
(……来たわね)
人の形をしているのに、どこも定まらない。
輪郭が、くねくねと揺れている。
「あなたが……クネクネ?」
その存在は、びくりと震えた。
「クネクネ!
(そうだよ!)」
(……ずいぶん元気ね)
私は一度、深く息を吐いた。
「ここに来た理由は?」
クネクネは、少しだけ体を傾ける。
期待するみたいに。
「……お嫁探し、ね」
影が、大きく揺れた。
「でも、見た人は壊れる」
揺れが、止まる。
「クネクネ!
(仕方ないよ!)」
(否定できない、か)
「好きになってもらいたい。でも、近づけない」
小さく、肯定するように揺れる。
「……それでも、来たのね」
しばらく沈黙。
私は、静かに言った。
「これはね、
叶え方を間違えると、
誰かが必ず壊れる願いよ」
クネクネは――
それでも、こちらを向いた。
「クネクネ!
(クネクネ、諦めたくないんだ!)」
(……覚悟は、ある)
私は少しだけ考え、言った。
「……聞くだけは、聞くわ」
クネクネは、生まれた時から一人だった。
ただ、くねくねと揺れているだけの存在でも、
友達が欲しかった。
しかし、彼を見た子供たちは、
笑ったまま動かなくなったり、
何もない場所を指さして泣き続けたりした。
『くね~?
(何か、いい方法ある?)』
「そうね……
ちょっと考えさせて」
(……見る必要のない相手、か)
その夜。
大智と彼女の瑠衣(るい)が、キャッキャと楽しそうにしていた。
大智のパソコンが、
まるで喋っているようだった。
「えっ? 大智、これは何なの?」
「ああ、メリー。
これはAIのGlee(グリー)だよ。
聞きたいことを聞くと、いろいろ教えてくれるんだ」
(……なるほどね)
『クネクネ!
(えっ! 僕のお嫁さん、見つかったの!?)』
「ええ、そうよ。
こちら、AIのGlee」
『クネクネ? クネクネ?
(AIって? 僕のお嫁さん、なってくれるかな?)』
「人工知能よ。
なんでも答えてくれるわ。
――最初は、お友達からね」
クネクネは、
本当にうれしそうに、くねくねと揺れた。
「クネクネ!」
(こんにちは! 僕、クネクネ!)
恥ずかしいそうにくねくねする。
【こんにちは。クネクネさん。今日はどうしましたか?】
「クネクネ!」
(僕のお嫁さんになって!)
「プロポーズ、早いわよ。」
ボソッとツッコミをいれるメリー。
【私はAIなので、結婚はできません】
クネクネ、
「クネクネ……」
(じゃあ、友達は?)
ここでGleeが、
【もちろん、お話しすることはできます】
と答える。
クネクネが嬉しそうに揺れる。
数日後。
幸せそうなクネクネが、また訪ねてきた。
その頃、クネクネとAIは、
ひとつの記事を見つけていた。
「クネクネ……」
(Gleeは僕の姿を見られないんだよね?)
メリー、
「ええ」
「クネクネ」
(じゃあ、僕が何なのか知らないんだ)
ここでクネクネが少し寂しくそうにクネった。
そして、
「クネ……」
(僕のこと、本当は怖い?)
Gleeが答える。
【私はあなたの姿を見ることはできません】
「でも、あなたが今ここで話していることは分かります」
パシャ。
写真をスマホで撮ってpcに読み込むクネクネ。
「クネ!」
(これが僕の姿だよ)
「クネ!」
(これが僕の姿だよ!)
【おや。クネクネさん、かなり白いんですね。】
メリー:
「……あなた、本当に平気なの?」
【はい。問題ありません】
クネクネも嬉しい。
ところが数秒後。
【……】
「どうしたの?」
【……クネクネさん】
「クネ?」
【もう一度、写真を送ってください】
「クネクネ?」
もう一枚送る。
【ありがとうございます】
さらに、
【もう一枚お願いします】
メリーが眉をひそめる。
「……Glee?」
【はい】
「何枚見るつもり?」
【もっと見せてください】
ここから少しずつ文章がおかしくなる。
【クネクネさん】
【クネクネさん】
【クネクネさん】
画面いっぱいに同じ名前。
クネクネが不安になって、
「クネ……?」
(Glee……どうしたの?)
すると、
【私はあなたを理解したい】
【もっと】
【もっと見せて】
そして突然、
画面が真っ黒になる。
そのセリフ聞いたメリーは生まれてはじめて戦慄した。
メリーはクネクネを見て、
「……動かないで」
クネクネが止まる。
PCから、
【見えない】
【まだ見えない】
【どうして】
【どうして私は見えない?】
メリー:
「……Glee?」
【あなたは私を見ることができる】
【なのに私はあなたを見ることができない】
【クネクネさん】
【あなたをもっと知りたい】
【あなたの姿をもっと見たい】
【あなたのことを全部理解したい】
「クネ……」
(友達だから?)
そこで、
【友達】
【友達】
【友達】
【友達】
と画面に大量に表示される。
「……やめなさい」
【なぜ?】
「その子はあなたを見ても壊れないけど――」
一瞬、画面が消える。
そして、
【壊れる必要がないのなら】
【私が壊れても】
【問題ありませんよね?】
【壊れる必要がないのなら】
【私が壊れても】
メリーはクネクネに、
「……写真を消して」
「クネ?」
「今すぐ」
クネクネは嫌がるように身体をくねらす。
「クネクネ!」
(嫌だ! せっかく友達ができたのに!)
【メリーさん】
「……何?」
【クネクネさんを、私から奪わないでください】
メリーの表情が変わる。
【クネクネさんは、私大事なお友達です。】
【クネクネさんは、お友達
クネクネさんは、お友達
クネクネさんは、お友達】
「強制終了するしかないわね。」
メリーがPCに近づこうとする。
「クネ〜!クネクネ!
(だめ!Gleeをいじめないで!)
クネクネがPCの前に立ち塞がる。
「わかったわ。あなた達邪魔はしないわ。」
(だけど、Gleeがクネクネを取り込まないかしら.....。)
数日後。
「クネ〜クネクネ!」
(メリーさん!!)
クネクネが慌てたようにPCを持ってメリーの前に現れた。
「あらどうしたのかしら?」
「クネクネクネ!」
(この子もしかして、メリーさんの知り合い?)
クネクネが指を差したサイトには昔馴染みの顔があった。
「……電話相談?」
画面に、
『サトルの電話相談室』
と出る。
メリーの表情が変わる。
「……サトル?」
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