江戸時代、越中売薬がまだ草創期だった頃。
農家の次男・佐次郎は、藩主前田正甫が広めた反魂丹の評判を受け、八重崎屋源六に誘われて新しい商いへ踏み出す。
薬の効能や帳簿の付け方を学び、藩の期待を背負って関東へ向かう旅が始まる。
本作は、越中売薬の歴史を丁寧に描きながら、佐次郎の初々しい決意と、商いに込められた「用を先に、利を後に」という精神を鮮やかに浮かび上がらせる。
旅の途中で出会う蜃気楼の描写は、彼の行く先を祝福するかのように美しく、物語に静かな余韻を添える。
歴史の息遣いと人情が交差する、越中売薬誕生の“ことはじめ”を味わえる一篇。