「大衆の理解力は小さく、忘却力は大きい」
いきなりヒトラーの『我が闘争』から始まる、かなり挑戦的な序章です。
描かれるのは、単純化された言葉、繰り返されるスローガン、敵と味方への二分化、そして同調圧力。
なぜ人は、集団になるとこれほど簡単に一つの方向へ流されてしまうのか。
本作が興味深いのは、それを「昔のドイツで起きた狂気」として安全な場所から眺めるのではなく、日本にも視線を向け、さらに現代を生きる私たち自身にも無関係ではない問題として突きつけてくるところです。
もちろん、ここで示される歴史観や人間観には、読者それぞれに賛否があるでしょう。
しかし、だからこそ気になる。
タイトルは『ダイン・ウント・マイン・カンプフ(キミと僕の闘争)』。
そして、この長い考察の最後に初めて現れる「私こと村上」という存在。
ここまで語られてきた大衆心理や同調圧力が、村上にとって「人生におけるテーゼ」「宿世」になったというのなら、彼はいったい何を経験したのか。
思想を説明して終わるのではなく、その思想を一人の人間の人生へ落とし込もうとしている。
かなり重いテーマを真正面から掲げた序章だからこそ、この「テーゼ」がこれからどんな「物語」へ変わっていくのか、続きを確かめたくなりました。