くるくる天然ふあふあカノジョ

竹藤戸 茉緒

図書館に響く音

青空の下、張り切りすぎた7月の太陽のおかげで

その校舎の表面は、火傷するような熱を帯びていた。


だけど、じらじらと焼きつけてくる灼熱の陽射しは

各教室内に設置されたクーラーに遮られ

カーテンの隙間から、明るい光だけをもたらしていた。



カロロォン カロロォン。



幾つもの氷が、水筒の中で自由に動いてぶつかり合って

軽く爽やかで涼し気な音を立てる。


その音が聴きたくて

その音を鳴らしたくて


水原みずはら透姫すき

手に持った鞄を足に当てながら、意味もなく歩き回った。


天然パーマを編みおろした2つのゴムの先が

歩く度に、ふよんふよんと揺れる。



カロロォン カロロォン カロロォン カロロォン⋯




「水原サン⋯ちょっとうるさい」


席に座って、本を読んでいた田中たなか貴哉たかや

モスグリーンの細縁の眼鏡を、右手の親指と薬指で上げ

静かに言った。


「ええ、なんも喋ってないよ?」


反論する幼なじみに、貴哉たかやはため息を一つして

透姫すきの持っているクーラーバックを指差す。


「それ。」


「ぉん。めっちゃいい音じゃない?可愛いよねぇ」


「それがうるさいの。

 ココ、図書室だから静かにしてください。」



図書室には、貴哉たかや透姫すきの他に

まだあと2人の女子と1人の男子が

それぞれ別々の席に座って本を読んでいた。


ちらりと一瞬目をやるだけで、黙って本を読み続けているが

ページをめくる紙の音くらいしか鳴ることのない

この図書室では

透姫すきが鳴らす氷の音は、確実に彼女達の耳にも届いていた。


「んん、はぁい⋯」


透姫すきは、ガタガタと椅子を引いて、貴哉たかやの隣の席に座った。

足を、ぷらんぷらんさせて、彼の横顔を見る。

貴哉たかやが本に集中して読み続ける姿に

頬杖をついて、彼の読んでる本を一緒に覗き込む。


それに気付いた貴哉たかやは、後頭部を向けるようにして

透姫すきが覗き込めないようにした。


諦めた透姫すき

今度は、クーラーバックの中身を取り出した。


がしゃん。


キュッ。くるくる。パカッ。

がしゃがしゃ。

カロン。


パキッ。ガリィッ。


水筒を開けて、おもむろに氷を食べ出す透姫すき

氷を砕く音が、図書室に響く。


「⋯ちょっと水原サン、こっち来て。」


「ふぁい」


口いっぱいに頬張った氷を噛み砕きながら

スタスタと歩く貴哉たかやの後を追い

てくん、てくん、と

図書室の奥の本棚の方へ歩いていく。


一番奥の人気のないところで

足を止めた貴哉たかやが振り向く。

透姫すきは、ゆったりと歩きながら貴哉たかやに近づく。



「⋯アナタね──」


「なぁに?たぁくん」


「その呼び方やめろ。」


「はぁい。何ですか、たなかくん」


「アナタは何故、毎日、図書室に来るの?

 図書室に来るんなら、静かにしてください。」


「たぁ、なかくん、私の名前は?」


「は?」


「下の名前」


透姫すき


「そう。ざっつらい」


「は?」


「だからぁ」


透姫すきが三歩、もっと貴哉たかやに近づいて背伸びする。

彼の左耳に内緒話をするように、手を口元に添えて


「すきだから」

フッと、耳に息を吹きかける。


「んなぁッ?!?!」


氷で冷やされた息に首をすくめ、思わず変な声が出た。


「シィーーーーッ。

 図書室では静かに。たぁ、なかくん」


右手の人差し指を、精一杯横に伸ばした唇に当てながら

にまにまして貴哉たかやを見上げる透姫すき



くっそぅ。

この憎らしい小悪魔め。



すぐ目の前にある、くるくる丸まった前髪の真ん中

透姫すきのおでこに

貴哉たかやは思いっ切りデコピンをしてやった。


ペチッ!!

「ィィイッ!!!!」


貴哉たかやの予想より、遥かに大きな声を出す

おでこを押さえて痛がる透姫すき

と同時に


「ちょっと静かにしてください!」


耐えかねた一人の女子のキレた声が聴こえた。


「はい、すみません!」


貴哉たかやは即座に謝りながら、眼鏡を右手で上げる。

そして目の前にいる

くるくるの瞳で、舌をちろりと見せ

貴哉たかやを見上げる透姫すきを、眼鏡越しに睨みつけた。



くっそぅ。

なんなんだ、こいつ。

こんなの──反則だ⋯!



貴哉たかやは、透姫すきを無視して横を通り向け

タンタンと足音を立てながら自分の席に戻った。


自分の耳に鳴り響く、煩い心臓の音を誤魔化すように──。

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くるくる天然ふあふあカノジョ 竹藤戸 茉緒 @fuathksm

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