星の使徒
「ハハハ! 見よ、この歪んだ世界に満ちる無駄な抵抗を!」
『星の使徒』フェリスが両手を掲げると、彼の背後に広がる空間が幾何学模様を描きながら歪み、幾十もの蒼い結晶の槍が展開された。
「消え去れ、歴史のゴミ屑ども!」
一斉に放たれる結晶の槍。それは音速を超え、空気を削りながら四人へ襲いかかる。
「全員、俺の後ろへ入れ!」
カイルが前へ躍り出て、長剣の刃に全身の闘気を叩き込んだ。
――ガガガガガガアンッ!!
激しい火花と衝撃波が荒野を吹き飛ばす。カイルの剣撃が放たれた結晶槍の半数を叩き落とすが、圧倒的な数と質量に押し込まれ、彼の足元の大地が大きく削れていく。
「くっ……重い……!」
「一人で格好をつけるな、元聖騎士!」
アルヴァンの冷徹な叫びとともに、《穿神の杭》の不気味な回路が今までにない紫と青の混ざり合った光を放つ。
ズドォォンッ!!
放たれた極太の光線が、残りの結晶槍を正面から穿ち、相殺してみせた。アルカディアが遺した過酷な技術と、アルヴァンの執念が結実した一撃だ。
「……ほう? 神の奇跡を模倣した鉄の玩具にしては、なかなかの精度だね」
フェリスは空中で優雅に旋回しながら、仮面の奥で嘲笑う。
「だが、世界そのもののルールを書き換える我が星の理には遠く及ばない!」
フェリスの指先が滑らかに動いた瞬間、カイルたちの足元の影が不気味に蠢き始めた。影から無数の黒紫色の触手が伸び、カイルとアルヴァンの足首を強固に捕らえ、その全身を侵食しようと蠢く。
「なっ……動きが……!?」
「足元からの侵食だと……!?」
「死者の記憶(ルール)を壊すのは、私の専売特許よ!」
ミラが舞うように跳躍し、大鎌を地表へ叩きつけた。
黒鉄の大鎌から解き放たれた墓守の冷気が地表を凍りつかせ、二人を拘束していた不気味な影を強引に砕き散らす。
「助かった、ミラ!」
「お礼は後にして。あの仮面男、ただの怪物じゃないわ。この空間全体の『法則』そのものを弄んでいる!」
ミラが察知した通り、フェリスの周りでは重力や空気抵抗すら正常に機能していなかった。攻撃を仕掛けても、近づくことすら叶わない。
「無駄だよ。この領域において、君たちの放つ物理も魔力もすべて無効化される。それが『灰の星』の法(ルール)だ」
フェリスが冷酷に手をかざし、リィナへ照準を合わせる。
「さて、不完全な鍵の少女。君の存在を解体し、真の扉を開かせる糧となってもらおう」
巨大な蒼い光の球体がフェリスの頭上に形成され、リィナに向かって滑空を始めた。逃げ場のない圧倒的な高密度のエネルギーの塊。
「リィナっ!!」
カイルが手を伸ばすが、間合いが遠い。
だが、リィナの瞳に恐怖はなかった。
彼女は一歩踏み出し、自らの両手をその巨大な光球へと向けてそっと差し出した。
(神様が作った代償のルールも……この人が持ち込んだ外のルールも関係ない)
リィナの胸の奥から、澄み渡る翡翠色の波紋が穏やかに広がっていく。
(ここは……私たちが生きている世界なんだから!)
――シュワァァァァ……ッ
衝突の瞬間、轟音も爆発も起きなかった。
フェリスが放った「空間を書き換える絶望の光」は、リィナの手のひらに触れた瞬間、まるで朝露が太陽に温められるように、ただの穏やかな光の粒子へと還元され、霧散していったのだ。
「……な……に……!?」
空中のフェリスが初めて動揺を見せ、仮面の奥の声を激しく震わせた。
「私の……我が主の『書き換え(ルール)』を無効化しただと……!? ただの人間(うつわ)に過ぎない存在が、なぜ概念の改変を拒絶できる!?」
「概念でも、ルールでもありません」
リィナは翡翠色の瞳をまっすぐに天へ向け、強く言い放った。
「これは……ここで生きる私たちの『意志』です!」
リィナの手から解き放たれた波紋がフェリスを包み込み、彼が支配していた絶対不可侵の領域を破砕していく。
「今だ、カイル! アルヴァン!」
ミラの叫びが響く。
「「うおおおおおおあっ!!」」
カイルの渾身の刃と、アルヴァンの《穿神の杭》から放たれた極大の光線が、重なり合いながら空中のフェリスへと襲いかかった――!
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