神々の残響
――破裂するような白光。
リィナの身体から解き放たれた光は、患者を癒やす柔らかい輝きとは根本的に異なっていた。それは幾何学的な紋様を描きながら空間を歪め、地下寺院の空気そのものを圧倒的な質量で押し潰す。
「ぐっ……!? なんだ、この高密度のエネルギーは……!」
アルヴァンは咄嗟に腕を交差させ、《穿神の杭》を盾にして光の衝撃波を防ごうとした。しかし、異次元から溢れ出るような力の奔流に吹き飛ばされ、石壁まで押し戻される。
光の中心で、リィナは虚空を見つめていた。
固く閉じられていたはずの彼女のまぶたから、一筋の光の粒子が涙のようにこぼれ落ちる。
(私の中に……何かがある……)
脳裏に直接、いくつもの声が重なり合って響いてくる。
哀しみ、畏怖、そして諦念。かつてこの世界を統治し、《神喰らい》によって破滅を迎えた神々の最後の残響だ。
『……器よ。目覚めるなかれ』
『人間(彼ら)を救うな。奇跡を渡すな』
『彼らの中に眠る“何か”が目覚めた時、世界は真の終焉を迎える……』
「あ……が……っ!」
急激に流れ込む膨大な情報量に耐えかね、リィナの意識が急速に遠のいていく。
それと同時に、彼女から放たれていた白い光が、ピタリと止まった。
光の消えた地下寺院に、重苦しい静寂が戻る。
「……ハァ……ハァ……」
アルヴァンは膝をつき、激しい吐息とともに黒い銃身を握り直した。
彼の外套は破れ、腕からは血が滲んでいる。リィナから解き放たれたのは「治癒」ではなく、この遺跡の古代機構を強引に起動させる「起動鍵」としての波動だった。
アルヴァンはリィナへ視線を向けた。彼女はそのまま力尽き、床へ倒れ込んでいる。
「……チッ。ここで仕留めるはずが……」
ズズズ……と、寺院の天井や壁から不気味な鳴動が響き始めた。
リィナの波動に反応した古代の防衛システムが、街全体で再起動を始めている。遠くから、無数の機械の駆動音が近づいてくるのが聞こえた。
「深追いは無用か……。だが、逃げられると思うなよ」
アルヴァンは吐き捨てると、煙の中に姿を消した。
「……おい。起きろ、リィナ」
耳元で聞こえる声に引き戻され、リィナはゆっくりと意識を取り戻した。
「カイル……さん……?」
「よかった……無事だったか」
目の前にいたのは、血を拭い、痛む身体を抑えながら腰を下ろしているカイルの姿だった。
胸元の傷は痛々しいままだ。リィナが力を使わなかったため、彼の傷は塞がっていない。しかし、ミラが施した応急処置と、カイル自身の強靭な生命力によって、なんとか一命を取り留めていた。
「私……カイルさんを助けられなくて……」
「バカ言え」
カイルは力なく笑い、リィナの頭にポンと手を置いた。
「お前が俺の言葉を聞いてくれたおかげで、誰の記憶も消えずに済んだんだ。礼を言うのは俺の方だ」
「でも……」
「それに、無茶をしたのはお前だけじゃないわ」
傍らで大鎌を磨いていたミラが、冷ややかな、しかしどこか柔らかい声で言葉を挟んだ。
「彼女の発した波動のおかげで、この寺院の地下にある『秘匿保管庫』の封印が解けたの。おかげで、面白い記録が見つかったわよ」
ミラが差し出したのは、青く光る一枚の金属板だった。
そこには、古代文字とともに、西の果てに存在する国家の地図が刻まれていた。
「神殺しの国――《アルカディア》。三百年前に唯一、神の手を拒み、自らの手で神を屠ったとされる鉄鋼都市……。そこに、あなたという『器』を造った原初の施設が存在するらしいわ」
リィナは自分の胸にそっと手を当てた。
気絶する直前に聞こえた神々の声。そして、自分の中に眠る「何か」。
「私は……行かなければなりません」
リィナは固く閉ざされた瞳を上げ、まっすぐに二人の方を向いた。
「自分が何者なのかを知るために。そして……救うことと、奪うことの答えを見つけるために」
カイルはフッと息を吐き、立ち上がった。長剣を鞘に収め、力強い足取りでリィナの隣に立つ。
「決まりだな。行くぞ、《アルカディア》へ」
♦︎
少し展開が早いかもしれないです。でも、詳しくは書きたくないんですよね。
設定が脆いとかじゃなくて、これ以上書くと、世界観が崩れちゃいそうな気がして。
もし、何か気が変わったり、自分の中で何かが見つかったら、もっと詳しく書くかもしれません。
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