閑話 五股王のその後

王城。

レオンは頭を抱えていた。

机の上には手紙の山が積まれている。

そのどれにも同じ言葉が書かれていた。

【五股王殿下へ】

「やめろ」

思わず呟く。

婚約裁判から二週間。

称号は消えない。

噂も消えない。

ついでにあだ名も消えない。

最悪だった。

「失礼します」

侍従が入ってくる。

「なんだ」

「本日の予定です」

書類を受け取る。

そこにはこう書かれていた。

第一王女との会食。

貴族会議。

婚約候補者との顔合わせ。

最後の一行を見て固まる。

「帰りたい」

「殿下」

「なんだ」

「昨日も同じことを言っていました」

うるさい。


---


会食会場。

令嬢達が並んでいる。

レオンは深呼吸した。

もう大丈夫だ。

反省した。

更生した。

今の自分なら誠実に対応できる。

そう思った瞬間だった。

「あれ五股王じゃない?」

「本物?」

「思ったより格好いい」

「でも五股王」

帰りたい。

本日一回目。


---


その日の夜。

レオンは珍しく酒を飲んでいた。

「殿下」

侍従が言う。

「なんだ」

「一つだけ」

「なんだ」

「エレノアに謝罪なさっては?」

レオンは黙った。

しばらく何も言わない。

やがて小さく息を吐く。

「……会えると思うか?」

その顔を見て侍従も黙った。

答えられなかった。


---


王都のどこか。

エレノアは新しい人生を歩いている。

もう王太子の婚約者ではない人生を。

それを理解しているからこそ、レオンは動けなかった。

「殿下」

「なんだ」

「少しは成長なさいませ」

「うるさい」

窓の外を見る。

夜空だった。

裁判の日。

泣きながら笑っていたエレノアの顔を思い出す。

そして初めて、自分が失ったものの大きさを理解した。

五股王の更生は、まだ始まったばかりだった。

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