孤独な薄幸令嬢

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『親愛なるランベール・ギーズ様


皆様その後いかがお過ごしですか。

先日はたくさんの差し入れをありがとうございました。


最近離れには、タオルやリネン、お菓子や果物などが、『使用した物やごみ屑などは籠に入れて玄関扉の前に置いて下さい』というメモと一緒にバスケットに入れられ、扉の前に置かれるようになりました。

早朝黒服が見えたので、執事さんかと思います。


わたしを気遣ってくれる人がいたんですね。嬉しいです。


以前のように街歩きしたいし、ティールームへ行きたいし、できれば旅行へも行きたいと思っています。馬車は少し苦手なので、列車旅ならできるかもしれません。


できましたら女性用のタオル、石鹸、化粧水、ボディローション、各種薬など差し入れていただければ助かります。


出版社の皆様にお会いできるのを楽しみにしています。


アイラ・サウスより』

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 それから何回か、使用人を巻き込んだエリーゼ・イーストの襲撃があった。そのたびにわたしたちは『かるたバトル』をしつつ、何かが壊れた。

 何だろう、この、ストレス発散大会。

 伯爵家の使用人は彼女を咎(とが)めもせず離れに通してくるから頭に来る。わたしは伯爵家の客人なんだけど。


 当主様不在、使用人を味方にしたヒステリー女の暴行、放置DV。

 ジェシー・ウエスト、エリーゼ・イースト、ウエスト邸の使用人。


(覚悟しておきなさい、元凶ジェシー・ウエスト!)


《ハゲろ、ハゲてしまえ、 髪の毛一本だけ残して丸ハゲになってしまえ!》


 わたしは『ジェシー・ウエスト ハゲろ』『エリーゼ・イースト ブタになれ』『ウエスト邸の使用人 梅毒でしね』と、恐怖文字書体風の日本語で書いた三体の呪いの布人形を作り、木に縛り付けた。ジェシー・ウエスト人形には、髪の毛を一本だけペンで書いておいた。


(さあ、これから丑の刻参りよ!)


 五寸釘はないので、憎しみを込めて呪いの布人形をゲンコツで何度も叩いたら、血濡れの布人形になった。


 その後、女性書店員が面会にやって来た。


 椿油で櫛削ったようにつややかなブルネットヘアーを後ろでまとめた、目鼻立ちのくっきりした女性。

「ギーズ卿のお使いなんです。こういうことは女性にしか分からないから、もっと早くに来るべきだったんだけど……ごめんなさいね。侍女がいないようだったから、必要だと思って」

「ありがとう、ございます、助かります」


 渡されたのは、大量の生理用品とタオル類だった。


「執筆は進んでいますか? フリップがリライトするから助かっているようだけど、もう少し文法と語彙のお勉強をした方がいいんじゃないのかしら?」


 いきなりそんなことを言われても……分かってはいるんだけど……この世界の学校へは行ってないし……。


「……分かり、ました……」

「ここなら気楽でしょう、居室を散らかしたって誰も非難しないものね……応援しています、しっかりね!」

「ありがとう、ございます?」


(叱られちゃった……のかな? 何者なの? ランベール様の愛人一号? にしても、叱られたのか励ましてもらったのかよく分からない)


 とはいえ、凄く助かりました。ギーズ出版社の皆さま、ありがとう。





 薄霧が立ち込める午後、何もやる気がなくて、庭園のベンチに座ってぼうっとしていた。最近のわたしは夢遊病者みたいになっている。

 二週間ごとに訪れるアーチーさんやギーズ出版社の人としか話をしていない。それもわずかな時間だけ。また話せなくなるかも。


 ここは監獄。

 サウス邸よりもキレイだけれど、誰もわたしに話しかけない。


 足元にゴルフボールが転がってきた。


 これは――タンディーさん?


 通りの向こうにスーツ姿のタンディーさんが手を振っていた。使用人には見えない。拾ったのはゴルフボールに見える、チョコレートを布で包んだものだった。


「タンディー、さん、わたしをここから、出して!」

 夢中で錬鉄フェンスを握りながら叫んだ。


「アイラお嬢様、屋敷の連中に見つかるとマズイ、声を出さないで……」

「なんで……」

「お嬢様は伯爵様の想い人ではという噂があるんだ」

「会ったこともないのに?」

「ほかの男と会っていてはマズイから、また様子を見に来るよ」

「あっ、待って……」

「オレ、お嬢様を守れるようになるから!」


 手を振りながらタンディーさんは消えた。





 翌日の昼下がり。

 その日は視界に入るものすべてが霧で覆われていた。

 足元にコツンと石が転がってきた。

 錬鉄フェンスの向こうに大男ともう一人の影……。


 近付いてみると、タバコを咥えているその姿は……。


『ランベール様!』と叫んで駆け寄ろうとしたら、ランベール様は片手を上げてわたしを制した。


「どうして?」


 こんなに近くにいるのに、どうして誰にも会えないの?


 俯きながらひとときタバコを吸うと、小さくなった吸殻を足元で潰し、ランベール様は霧の向こうへ去って行った。


 わたしはその様子を黙って見ているしかなかった。





【オマエを絶対許さない】



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☞このころから文学青年フリップ・セシルの野望(アイラの小説を自分勝手にリライト)が加速します。

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