第4話 型紙

ハトロン紙を作業台いっぱいに広げる。


身頃。袖。脇身頃。


一つひとつのパーツに定規を当て、静かに線を引いていく。


ウエディングドレスは、一枚の布から生まれるわけじゃない。幾つものパーツが重なり合って、ようやく一着になる。


…人の想いも、少し似ているのかもしれない。


恋もきっと、たった一日で始まるものじゃない。


小さな出来事を何枚も何枚も重ねて。


気付いた頃には、どれも不可欠なパーツになっている。


◇◇◇


あれは、保育園の頃。


母の帰りが遅くなる日は、私はよく和恵の家で預かってもらっていた。


「麻美子、一緒にあそぼ!」


小さな手に引っ張られて、おままごとをして。

積み木で遊んで、夕飯をごちそうになって。


「また明日ね」


その約束が、私は好きだった。


明日も、明後日も。和恵が私の隣にいることを、疑ったことなんてなかった。



あれは、小学生の頃。


私は人前で話すことが苦手だった。


教科書を読むだけで声が震えて、間違えるたび、教室中の視線が刺さる気がした。

休み時間も、一人で本を読んでいることが多かった。


「麻美子!」


そんな私の手を、和恵は何の迷いもなく掴んだ。


「ドッジボールやろ!」

「……私、苦手」

「大丈夫、大丈夫!」


その一言だけで、私は輪の中へ入っていけた。



あれは、中学生の頃。


部活で友達と意見がぶつかった。

どうしても上手く言葉が出なくて、気付けば、学校を飛び出していた。


夕暮れの公園。ブランコに揺られながら、一人で泣いた。


「……いた」


息を切らして現れたのは、顧問でも当の本人でもなく、和恵だった。


「…和恵」

「探したんだから」


怒っているのかと思った。


そう少し身構えていると、和恵はコンビニの袋を差し出した。


「はい」


温かいココア。


「……何も聞かないの?」


そう尋ねると、和恵は首を横に振った。


「話したくなったら聞く。今は、一緒にいる」


ただ、それだけだった。

私は泣きながら笑った。


◇◇◇


高校生になって、和恵は何度も恋をした。


そのたびに相談を受けて。

そのたびに応援して。

そのたびに失恋して。

そのたびに慰めた。


いつから好きだったのかなんて、もう覚えていない。


保育園の頃だったかもしれない。

小学生の頃だったかもしれない。

中学生の頃だったかもしれない。


一つだけ分かることがある。


私の恋は、ある日突然始まったものじゃない。


幼い頃から少しずつ。


何枚もの思い出を重ねて、縫い合わせて。


ようやく”好き”という形になった。


◇◇◇


「……できた」


気付けば、型紙が完成していた。


幾つものパーツ。


どれも欠けてはいけない。


私はそっとハトロン紙を撫でる。


このドレスも、私の恋も。

きっと、似ている。


きっと一つでも欠けていたら、

今の形には、ならなかった。

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