親善試合で負かしたお姫様が婚約者になった件について 〜紅の記憶編〜
天宮終夜
第零部 〜紅の記憶編〜
第一章
序章
——退屈だな⋯⋯そうだ、旅に出よう。
国内に相手がいないと思う今日この頃。
そんな突拍子もないことを考えた朝。
俺、
——国一番の剣士を決める大会で優勝しなさい。
元々東雲家は
それを裏付けるように身分を隠すため、狐の面を持たされた。
父親的には天狗になっている息子の鼻っ柱を折りたかったのだろうか?
そんな父さんの目論見を鼻で笑うべく無傷で勝ち抜き、中には相手の薬物疑惑での不戦勝を交えつつ、見事優勝。
しかし、父さんの真の目的を知ったのは優勝した後だった。
試合の翌日の午後。
御門家の勅命により、父さんと共に大和城へ召集。
大和城で現城主代理殿と面会でまさかのことを言い渡された。
——ぜひ、娘の護衛役になってほしい。
東雲家の家名か、はたまた大会の実績を買われたのか。
どちらにしろ拒否権がない俺は言われた通り、ほとんどの者が立ち入りを許されていない中庭へと向かう。
「あの父さんがわかりやすい計画を立てるわけないよな⋯⋯おっ」
見事な枝垂れ桜の下にいたのは遠目からでも目立つ真紅の髪の少女。
こちらの足音に気づいた彼女は春風と共に振り返る。
「あなたが私の護衛役?」
ふわりと揺れる髪に透き通る声。
こちらを見る大きな瞳には何故かほのかに敵意が宿っている。
まるで冬の凍てつくような寒さの中、気高く咲く椿のようなお方。
それが次期城主である
おっと、目線を合わせたら『不敬罪よ』とか難癖をつけられそうだ。
ちゃんと頭を下げないとな。
「はい。お初にお目にかかり——」
「最初に言っておくことがあるわ」
「なんなりと」
こちらの挨拶は一蹴。
どうせ『私のことを死ぬ気で守りなさい』とか、ありきたりなことでも言うのだろうな。
「
初手にまさかの解雇通知とはこれは一本取られ⋯⋯⋯⋯は? え?
もしかして、主語を聞き間違えた?
「仮に私の命が危ない状況だったとしても違えることは許さないから」
あ、やっぱり聞き間違いじゃないんだ。
てか、それで見捨てたらリアルに首が飛ぶんですが⋯⋯いや、待てよ?
けど、これ考えようによっては最高なのでは?
普通の人なら『次期城主の護衛役という栄誉を守るべく、我が誇りにかけてその命を全うする所存』とか思うのだろう。
しかし、俺が思ったのは『つまりは自分の裁量で辞める権利を与えられたようなものだな』である。
何と、間抜け——ゴホッ! ゴホッ!
素晴らしい主なんだ。
「承知いたしました」
ただ、わざとヘマをして解雇されては父さんに怒られる。
問題は東雲家の家名に傷がつかないようにどう解雇されるかだな。
「もう、下がっていいわよ」
「はい。失礼いたします」
護衛役は明日からなので今日は顔見せ程度。
護衛役泣かせな一言を言い放つ、少々クセの強そうな主だが許容はん——。
——シュッ!
霞のような敵意が強まるのを感じて首を傾げると黒い物体が通り過ぎる。
正面の木に軽い音を立てながらクナイが力なく跳ね返っていた。
「それ捨てといて頂戴」
訂正。
かなりヤバい主だわ。
「⋯⋯承知しました」
これでかすり傷を負えば解雇。
相手が御門家なので不当解雇適性外な気がしてならないな。
それにしても⋯⋯随分軽い材質のクナイだな。
模造品か?
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね」
今かよ。
「申し遅れました。私、東雲——」
クナイの次は短剣で斬りつけてくる。
だが、動きは素人同然。
握力も並以下なので危害を加えることも、触れることもせずに短剣を没収する。
「隼人と申します。以後、お見知りおき様」
短剣もクナイと同じ模造品。
刃もないので、きゅうりすら切れなさそうだ。
「チッ⋯⋯」
品性のかけらもない舌打ち。
実は影武者でしたってオチだったらいいのだが。
残念なことに彼女の簪に付いている鳳凰の装飾が施された玉が否定している。
「よろしくね、東雲さん」
「はい。よろしくお願いします」
最初からこちらを傷つける気はなかったみたいだが、ひとまずは今日のところは合格のようだ。
姫様との対面を済ませて父さんと合流。
「隼人。城崩しでもする気じゃないだろうね」
「右手に短剣、左手にクナイを持っている息子への第一声がそれ? そんなわけないだろう」
「なら、いいんだけどね」
仮にその気だったとしてこんな模造品でできるわけないだろう。
父さんの冗談は時々意味不明なんだよな。
「どこに行くんだい、隼人」
「どこって⋯⋯家に帰るんだろ?」
今日のところは御暇するので正門前へ向かおうとしたら首を傾げられた。
「何を言ってるんだい。君は今日からここに住み込みで働くんだよ」
「⋯⋯⋯⋯は?」
「安心しなさい。その物騒なものはこちらで処分しておくから」
いや、それじゃない。
父さんが連れて帰るべきは俺の方——。
「⋯⋯いっちまいやがった」
まさか、母さんよりかは真っ当だと思っていた父さんに育児放棄されるなんて⋯⋯。
一人旅に出ても問題ないということだな。
覚えておこう。
「はぁ⋯⋯したかねえか」
諦めて城内の廊下を歩いて人を探すことに。
第一村人である親切な侍女さんに出くわしたのはそれから三時間後のことだった。
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