第十話 ブルヤンの壊れた竜道橋
翌朝、ブルヤンは共同厨房の入口に立ち、いつものように安全ヘルメットを差し出した。
「来い」
「どこへ行くのかを先に言ってください」
「壊れたものを見せる」
その言い方では世の中の半分以上が候補になる、とカリンンエは思ったが、ヘルメットを受け取った。ユナスが鍋の前から手を振り、イオクエリンが「急いでそうな顔の人は連れて行かないでね」と言った。ブルヤンは聞かなかったことにした。
港の坂を上り、霧で濡れた松林を抜けると、竜道橋の古い入口が見えた。
かつて島々をつないだ竜道橋は、海峡の上に長い弧を描いていた。幼いころのカリンンエには、空へかかる背骨のように見えた。今は、欄干の竜模様が欠け、床板は何枚も外れ、霧が橋の下から息のように吹き上がっている。
「足を置く場所を見る。思い出で歩くな」
ブルヤンは先に進み、危ない板へ赤い印をつけた。彼の背中は自由に見えるのに、足は一歩ごとに用心深い。
「修理計画は出した。前年の秋に。通学路と市場側だけでも先に直す案だった」
「王都から返事は?」
「予算停止。理由は聖杯管理費の増加」
その言葉に、カリンンエの手がヘルメットの縁をつかんだ。
王都の配給表にあった不自然な項目。港の廃棄記録。霧の日付。そして、橋の予算停止。別々に見えていた紙が、湿った橋板の上で一枚に重なっていく。
橋の中ほどで、ブルヤンが膝をついた。
「ここから先は駄目だ」
「でも、下に箱があります」
カリンンエは欄干の隙間から、橋脚の根元に引っかかった木箱を見つけた。王都の倉庫で使われる、黒い焼き印入りの箱だ。霧で膨れ、蓋は半分外れている。
「見るだけです」
「見るだけで落ちる人間はいる」
ブルヤンは短く言い、縄を腰に巻いた。文句を言う暇もなく、彼は橋脚の石段へ降りていく。カリンンエは上で縄を握り、手袋の中の汗を感じた。
彼が箱を引き上げると、中から濡れた札が数枚出てきた。食糧札だった。王都印。外れ島宛。日付は、ニコラスの表で霧が濃くなった日の前日。
「捨てたのか、落としたのか」
「どちらでも、届いていません」
声が震えた。王都で自分が書いた修正表も、こんなふうにどこかへ落とされたのだろうか。誰かが、名前のついた食べ物を名前のない箱へ押し込んだのだろうか。
ブルヤンは彼女を責めなかった。無理をしたことも、橋の下をのぞいたことも、何も言わない。ただ、自分の鞄から新しいヘルメットを一つ出し、カリンンエの頭にかぶせ直した。
「古いのは割れ目がある」
「今、そこですか」
「今、そこだ」
カリンンエは濡れた札を胸に抱え、口元をゆるめた。疑いは重い。それでも、同じ証拠を見た者が隣にいる。その分だけ、霧の中の足場は広くなった。
橋の奥で、見えない何かが低く鳴った。海鳴りではない音だった。
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