ルドラス/幼少期『小さな星の約束』

第?話『小さな星の約束』


まだ六歳ほどだった頃のルドラス。


生まれながらにして規格外の生命魔力と強い獣性を宿す、獣亜人。

好奇心旺盛で元気いっぱい。身体にいくつもの管や測定器を繋がれていても、隙あらば遊びたがるような子どもだった。


そして、そんな彼を保護した若きレクシウス。

幼い獣亜人をどう扱えばいいのか手探りのまま、それでも彼が不安なときには傍にいる。


まだ家族ではない。

けれど、少しずつ特別になっていく。

そんな二人の頃の物語。



───白い部屋には、機械の音だけが響いていた。


ぴ、ぴ、ぴ。


一定の間隔で鳴る電子音。


ベッド脇に置かれた生体情報モニターには、心拍数、呼吸数、体温、血中酸素濃度、そして生命魔力の流量が表示されている。


その横から何本もの細いコードが伸びていた。

胸元には心電図用の電極、指先には脈拍と酸素状態を測るセンサー。

腕には魔力測定用の帯、そして手の甲には留置針。

透明な管を辿った先には、点滴袋が吊り下げられている。


まるで重い病気を抱えた子どものような姿だった


けれど。


「……お腹すいた」

ベッドに座っていたルドラスは、そんなことを言っていた。


「さっき食べたでしょう?」

検査員が苦笑する。


「食べた」

「では、もう少し我慢しましょう」

「なんで?」

「検査が終わってからです」

「いつ終わるの?」

「もう少しですよ」


「……さっきもそう言った」

ルドラスの虎耳が、ぺたんと横へ倒れた。


橙色の髪の間から覗く耳は、まだ幼い身体には少し大きい。

尻尾も同じだった。

ベッドの端から垂れた太い尾が、退屈そうに左右へ揺れている。


「……ずっとここ?」

「今日は検査の日ですからね」

「検査、嫌い」

「そうでしょうね」


「いっぱい付けるから」

ルドラスは自分の身体を見下ろした。


胸に貼られた電極、腕に巻かれた測定器、指先のセンサー、点滴の管。

その全部が鬱陶しくて仕方がないらしい。


けれど、本人の顔色は悪くない。

むしろ頬には健康的な赤みがあり、目にも力がある。


呼吸も安定している、熱もない。

どこからどう見ても、元気な六歳児だった。


だからこそ、医療班にとっては扱いが難しい。


「ルドラス君、腕を動かさないでくださいね」


「なんで?」


「魔力測定がずれてしまいます」

「でも、痒い」

「もう少し我慢しましょう」


「……むー」

ルドラスは腕を見た。

そして、ほんの少しだけ肘を動かす。


モニターの数値が変化した。

検査員がすぐに画面を見る。


「……今の、分かりました?」


「なにが?」


「今、魔力流量が上がりました」


「?」

ルドラスには何のことか分からない。

ただ、身体を動かしただけだった。


それでも生命魔力の流れは、明確に変化している。

年齢に対して異常な出力、獣性の発現も強い。

筋力、反射速度、感覚器官。

どれを取っても、同年代の獣亜人とは比較にならない。


ルドラスは獣亜人だった。


獣亜人。人間の身体を基本としながら、祖先となった獣の身体的特徴や能力を一部発現させる種族。


耳や尾、鋭い牙、優れた嗅覚や聴覚、身体能力。

そうした獣の性質を、人の姿の中に部分的に宿している。


けれど、ごく稀に。

祖先の獣人としての性質が強く表れる個体がいる。


いわゆる、先祖返り。

本来なら思春期から青年期にかけて、獣人に近い姿へ変化する能力として現れることが多い。


しかしルドラスの場合は、その兆候が幼少期から極端だった。


「……また上がりましたね」

検査員が小さく呟く。


「何が?」

「魔力です」

「いっぱい?」

「いっぱいです」

「すごい?」


「……すごいですね」


ルドラスは嬉しそうに笑った。

「やった」


「褒めているわけではないんですよ」


「なんで?」

「……難しいですね」


少し離れたところで、その様子を見ていたレクシウスが小さく息を吐いた。


「ルドラス」


「なに?」

「……褒められたわけではないんだ」


「でも、すごいって」

「そうだな、すごいことではある」

「じゃあ、すごいじゃん」


「……そう……だな」

レクシウスは負けたように笑った。


彼がルドラスを見つけたのは、そう昔のことではない。

最初に見たとき、彼はこの子を獣人だと思った。


幼い身体、鋭い爪、獣のような耳と尾の獣人の姿

そして、何より人の子どもとは明らかに違う身体能力。


だから、保護した。

正確に言えば、最初は保護というより捕獲に近かった。


危険な場所に一人でいた幼い獣人。

このまま放置すれば死ぬ。そう判断して、半ば強引に連れてきた。


ところが。

保護した後、ルドラスの身体に起きた変化を見て、レクシウスは言葉を失った。


獣の姿が、ゆっくりと人の姿へ戻っていった。


骨格が変わる、毛が消える、四肢が縮む。

そして最後には、獣人に見えたその子が、獣亜人としての姿へ戻っていた。


レクシウスには、それが何を意味するのか分からなかった。


「……獣人じゃ、ないのか…」

当時、そう呟いた。


その言葉を聞いた医療班が、彼に説明した。


──先祖返り。幼少期からこの状態が発現している。

──極めて珍しい個体。


そして、もう一つ。

ルドラスは孤児だった。


父親も母親もいない、物心がつく頃には、すでに一人だった。

それでも生きていた、生き延びていた。

異常な身体能力と獣性のおかげで。


幼い身体では到底届かない場所へ飛び、普通なら逃げ切れない危険から逃げ、普通の子どもなら耐えられない環境を生き延びた。


だからこそ、レクシウスが見つけたときには、六歳ほどの幼い身体に対して、すでに異常なほど強い生命力が備わっていた。


病弱だったわけではない。

むしろ逆だった、元気すぎた。


「……ルドラス君」

検査員が声をかける。


「ん?」

「少しだけ深呼吸できますか?」

「できる」

「ゆっくりですよ」


「うん」

ルドラスが胸を膨らませる。


すう、と息を吸う。


その瞬間、モニターの数値が一気に変化した。


検査員が画面を見る。

「……魔力流量、上昇」


「え?」

ルドラスは何も分からない。


「もう一度お願いします」


「うん」

同じことをする。

また数値が跳ねた。


「やっぱり……」


検査員が記録する。

興奮、緊張、運動、感情の変化。

そうした些細な刺激だけで、ルドラスの獣性と生命魔力は強く発現する。


だから医療班は、常に彼の状態を確認しなければならなかった。


──そう、危険だからだ。


ルドラスの生命魔力は、幼い身体にはあまりにも大きい。

魔力出力が一定の許容量を越えれば、身体だけではなく、その存在そのものを削ってしまう可能性がある。


けれど、そのことをルドラス本人には伝えていなかった。


まだ六歳の子どもに、「力を使いすぎれば自分が削れてしまう」と教えるのは簡単なことではなかった。


いずれは、自分の身体と力について理解させなければならない。

けれど今のルドラスに必要なのは、恐怖を覚えることではなく、自分の力を正しく知っていくことだった。


そして、話をさらに難しくしているのが──


ルドラスの魔力は、身体の動きだけで変化するものではなかった。


嬉しい、怖い、怒る、興奮する。

そんな感情の揺らぎひとつでも、魔力の出力が大きく変動する。


だから医療班は、彼の前ではそのことを口にしなかった。

「興奮すると魔力が上がります」

「怒ると危険です」

「感情を抑えてください」

そんな言葉を覚えさせてしまえば、ルドラスはきっと、自分の感情そのものを怖がるようになる。


六歳の子どもに、自分が笑うことも、怒ることも、怖がることも危険なのだと思わせたくはなかった。


だから、何も知らないままでいい。

「魔力の流れを確認しますね」

「身体に負担がかからないようにしましょう」

「今日は少し安静にしていましょう」

医療班は、必要なことだけを穏やかに伝える。


本当の理由は、記録の奥にだけ残されていた。


──生命魔力の過剰出力。

──感情変動に伴う魔力流量の急激な上昇。

──過剰出力による存在限界への干渉、その兆候。


それでも当の本人は、何も知らない。

今日も検査に飽きて、頬を膨らませて。


「おれ、元気」

と、胸を張る。


その無邪気さを守ることもまた、医療班が彼を管理する理由のひとつだった。


「……終わった?」

「まだですよ」


「えー……」

ルドラスはベッドへ倒れ込もうとする。


「危ないぞ」

レクシウスがすぐに支える。


「コードがここにある」

「……これ、邪魔」

「そうだな」

「取って」

「それは俺にはできないよ」

「なんで?」

「必要なものだからな」


「でも、おれ、元気」


妙に「お」の音だけが高く跳ねた。

「お⤴︎れ⤵︎」とでも言うような、胸を張るように音程が上がってから、最後にすとんと落ちる独特の発音だった。


どうやら本人はいたって真剣らしい。


「知ってる」

レクシウスはくすりと笑いながら答え、ルドラスが顔を上げる。


「おれ、ビョーキじゃない?」

「ああ」

「ほんと?」

「とても元気だ」

「じゃあ取って」

「それとこれとは別」


「むー……」

ルドラスの頬が膨らむ。

レクシウスは、その顔を見て少し笑った。


病室にいるべき病人の顔ではない。

むしろ、外へ出れば一瞬で走り出してしまいそうな顔だ。


それでも、この子にはここが必要だった。

少なくとも今は。


──五年間。

成長して、自分の力をある程度扱えるようになるまで。

ルドラスは魔女会の医療施設で過ごすことになる。

毎日のように身体を測り、魔力を測り、獣性の変化を記録し、成長を見守られる。


そして、その傍には。

拾ったばかりで、まだこの子との距離を測りかねている若い男がいる。


「……れくしうす」

「ん?」

「もう帰ろ?」


「……今日は、ここがルドラスの部屋だ」


「……そっか」

ルドラスは少し考えて。


「じゃあ、ここで遊ぶ」

「それは構わないが、走らないでくれよ?」

「走らない」

「本当か?」

「……ちょっとだけ」


「駄目だ」


「むー」

また頬が膨らむ。


その姿を見ながら、レクシウスは思った。

──この子は、きっと長くなる。


けれど。

それが五年であろうと、もっと長い時間であろうと。

少なくとも、自分がこの子を拾った以上。


この小さな獣が、自分の足で外へ出られるようになるまで。

傍にいるつもりだった。


────


それからしばらくして

「……はい。次、胸部の魔力反応を見ますね」

白衣の検査員が、ルドラスの胸元に新しい測定パッドを貼った。


「……ん」


ぺたり。ルドラスの肩が小さく跳ねる。


「冷たい」


「少しだけですよ」

「毎回冷たい」

「そうですね」

「もっと温かくできないの?」

「機械ですからね」

「じゃあ、お湯で温めて」

「それでは測定できません」


「……ちぇ、使えない」


検査員が苦笑する。

レクシウスも隣で笑っていた。


「ルドラス、機械に文句を言っても仕方ないぞ?」

「だって嫌い」

「そうだな」

「全部嫌い」

「…そうだな」


胸には心電図用の電極、指先にはセンサー、腕には魔力測定用の帯、手の甲には留置針。

何本もの管とコード、それらを繋いだまま、ルドラスはベッドに座っている。


しかし


「……暇」

そう言った次の瞬間には、足をぶらぶらさせ始めた。


「動かさないでいてくれよ?」

「動かしてない」

「足だ」


「足はいいでしょ」

「心拍が変わるんだよ」


「じゃあ、ゆっくり動かす」

「それでもだ」


「……じゃあ、何してればいいの?」

「じっとしてろ」


「それが一番嫌い」

レクシウスが吹き出す。


「何がおかしいの!」


「いーや?」

「笑った!」


「すまん」


ルドラスは頬を膨らませる。

けれど、怒っているというより、構ってほしいだけなのが分かる。


医療施設で暮らすようになってから、ルドラスは検査員や看護師の顔をよく覚えるようになった。


誰が優しいか、誰が注射が上手いか、誰が遊んでくれるか。

そして。誰が「もう少し」と言って検査を長引かせるか。


「……あの人、嫌い」

「誰のことだ?」

「あの人」


ルドラスが検査員を指差す。


「昨日、採血した」

「それは仕事だからな」


「痛かった」

「少しだけだろ?」


「痛かった」

「じゃあ今日は別の人に頼むか」


「ほんと?」

「ああ」


ルドラスの耳がぴんと立つ。

「やった」


その変化を見て、レクシウスは思わず笑った。

分かりやすいこの子は、とにかく分かりやすい。


嬉しいと耳が立つ、嫌だと耳が伏せる、興奮すると尻尾が揺れる、怒ると牙が覗く。

そして感情が大きくなるほど、魔力も強くなる。


だから医療班は、数字だけではなく、ルドラス自身の様子を見るようになった。


心拍数、呼吸、体温、魔力流量、獣性の発現。

それらを一緒に見る。

それが、この子の生活だった。


「……ルドラス君、もう少しだけ腕を動かさないでくださいね」

「これで終わり?」

「この検査が終われば、次は血液検査です」


「…………」

ルドラスの耳が伏せる。


「そのあと?」

「簡単な運動負荷検査があります」


「………………」

今度は尻尾まで、ベッドの端からだらりと垂れた。


「もう少しだけ頑張りましょう」

「……さっきから、もう少しって言ってる」


「ええ……」

「さっきも、もう少しだった」


「……はい」

「その前も、もう少し」


「……はい」

「その前も」


「……はい」


とうとうルドラスは、ぷいっと顔を横へ向けた。

「もうやだ」


小さな声だった。


検査員が困ったように手を止める。

「ルドラス君……」


「元気だもん」

ルドラスはむすっとしたまま言った。


「おれ、元気」

また、妙に「お」の部分だけ強く、胸を張るような発音だった。


「痛くないし、苦しくないし、走れるし」

「走るのは駄目ですよ」


「なんで!」

「今、検査中ですから」


「終わったら?」

「医療班の許可が出てからです」


「いつ?」

「後で」


「後っていつ?」

「検査が終わってから」


「じゃあ終わらせて」

「今、頑張っているところですよ」


「……頑張ってる」

ルドラスは小さく呟く。


そして、自分の手の甲を見る。

そこには点滴の針が入っている。


透明な管、その先にある点滴袋。

ルドラスはそれを見て、ますます不満そうな顔をした。


「これも嫌い」

「必要ですからね」


「おれ、元気なのに」

「はい」


「ビョーキじゃないのに」

「はい」


「なのに、ずっと繋がってる」


レクシウスが静かに答える。

「……そうだな」


──五年。


ルドラスが成長するまで。

この子はここで暮らす、それは、もう決まっていた。

外へ出られないわけではない、遊べないわけでもない。

けれど、常に医療班の目が届く場所にいる必要がある。


元気だからこそ、力があるからこそ。


普通の子どもと同じように遊ばせてしまえば、身体能力の上昇に対して身体の制御が追いつかなくなる可能性がある。


興奮すれば獣性が強くなる、獣性が強くなれば魔力出力も上がる。

魔力が上がれば、身体への負荷も変わる。

だから、見ていなければならない、測らなければならない。

記録しなければならない、ルドラスが自分の力を自分で扱えるようになるまで。


「……ルドラス」

「なに」


「今日はもう十分頑張ったな」

レクシウスがベッドの横へ歩いてくる。


ルドラスは顔だけを向ける。

「ほんと?」


「ああ」


「でも、まだ検査あるって」

「それは明日にしてもらおう」


「明日も?」

「残念だがな」


「…………」


また耳が伏せる。

レクシウスは苦笑した。


「だが、その前に」


懐から小さな紙の台紙を取り出す。

ルドラスの目が動く。


「……なにそれ」

「ご褒美だよ」


「シール?」

「ああ」


台紙には、星や猫、犬、小さな王冠。

色とりどりのシールが並んでいる。


「今日、よく頑張ったからな、一枚選べ」

「一枚?」

「一枚だけだ」


ルドラスはじっと眺める。

青い星、黄色い星、猫、犬、王冠。


そして

「これ」


指差したのは、一番端にあった橙色の星だった。


「これがいい」

「んじゃ、これだな」


レクシウスがシールを剥がす。


ぺりっと、小さな音。

そして、ぺたり。


ルドラスの手の甲に貼る。


「……」


ルドラスはじっと自分の手を見る。

小さな橙色の星、医療機器ではない。


測定のためでもない、魔力を見るためでもない。

ただ、頑張った証として貼られた星。


「……かっこいい」

「気に入ったか?」


「うん」

「それはいい」


ルドラスは星を指でそっと撫でる。


「これ、明日もくれる?」

「おう、明日も頑張れたらな」


「……じゃあ頑張る」


「うし!偉いぞ」

レクシウスが頭を撫でる。


ルドラスの耳が、ゆっくりと立つ。

「ねえ」


「なんだ?」

「これ、全部外れたら遊んでいい?」


「今日の検査が終ったら、少しだけな」

「じゃあ、遊ぶ!」


「走るのは駄目だぞ?」

「なんで!」


「元気でも駄目なんだよ」

「元気なのに!」


「そうだな」

「おれ、すっごく元気」


「わかってる」

「じゃあ走っていい?」


「駄目だ」

「むー……」


それでも。

尻尾だけは嬉しそうに揺れていた。

検査員が残った器具を確認する。


「では、最後にこの数値だけ見ますね」

「まだあるの?」


「本当に最後です」

「……ほんと?」


「本当です」

「絶対?」

「絶対です」


ルドラスはしばらく疑うように検査員を見た。


それから、手の甲の星を見る。

「……じゃあ、頑張る」


小さな声だった。

レクシウスは何も言わず、その頭を撫でた。

この子はまだ、自分の身体がなぜ特別なのか知らない。


先祖返りという言葉も、獣人化という言葉も。

自分の魔力がなぜこれほど強いのかも。


ただ、自分は元気なのに、どうしてみんな心配するのか。

その程度しか分かっていない。


けれど

それでいいのかもしれない。

今はまだ

この子が自分の力を怖がらずに済むように。


自分の身体を嫌いにならずに済むように。

そのために医療班がいて、そのために、ここがある。


そして、その中で、レクシウスは少しずつ、この子にとっての「誰か」になっていく。


親でもない。

医者でもない。


まだ家族と呼べるほど近くもない。


ただ


検査が嫌で頬を膨らませたとき。

怖くて手を握りたくなったとき。

頑張ったことを誰かに褒めてほしいとき。


そこにいる人

──それだけだった。


けれど六歳のルドラスにとっては、それだけで十分だった。


「……れくしうす」

「ん?」


「これ、取れないようにして」

ルドラスが手の甲の星を見せる。


「分かったよ」

「明日も欲しいから」

「ああ」


「明後日も」

「そうだな」


「その次も」

「……ずいぶん先まで決めているんだな?」


「だって、いっぱいあるから」

台紙を指差す。


青い星、猫、王冠、まだまだ残っている。


レクシウスは笑った。

「じゃあ、全部集められるように頑張らないとだな?」


「うん」

ルドラスは嬉しそうに頷く。


そして、小さな手を握った。

そこには一本の点滴の管が繋がったままだった。


胸には電極、指にはセンサー、身体には魔力測定用のパッド、何本もの管とコードに囲まれながら。


その手の甲だけが。

小さな橙色の星によって、少しだけ自由に見えた。


「……明日も頑張る」

レクシウスは、その言葉に静かに微笑んだ。


「ああ」

「明日も来るからな」


ルドラスの尻尾が、ぱたん、と一度だけ嬉しそうに揺れた。

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