第二話 持ち時間は90秒、その時間の使い方は強さに直結するぞ
配信を終えたのは21時過ぎだった。
配信中は特に気にならなかった空腹感は今になって込み上げてくる。
「スパチャもらったし、外食しちゃってもいいよね」
なんとなくラーメンが食べたい気分であったが、最寄りにラーメン屋はないのでファミレスに向かうことにした。
夜風に当たるというより、まだまだ熱気をまとった空気のかたまりの中を進んでいく。Tシャツの襟元をいくらばたつかせたところで、ふいごと化すだけであった。
部屋と家の外とで体感温度に差が感じられないことは看過できない問題だが、防音室が醸し出す閉鎖感はないので気分は段違いだ。
お目当てのファミレスに到着した。
大げさなベルが涼し気な空気を連れてきてくれる。ふっと一息付きながら辺りを見ると、もうすでに空席待ちのお客がソファーに腰をかけていた。
僕は順番待ちのリストに「ウシオ」と記入してからウレタンの感触を確かめた。
それから迷うことなくスウェットのポケットに手を突っ込んで、スマートフォンを取り出した。
起動するのはもちろん例のカードゲー厶。あれだけ配信で遊んだのにも関わらず、暇さえあれば自然とゲーム画面を開いてしまうのは、ある種の癖である。
たくさん練習した奴が上手いなんて当たり前のことかもしれない。ただ、カードゲームが上手いやつの練習量が半端なものではないことは知っている。一日10時間の練習だなんて決めた日に限って、簡単12、3時間を超えてしまう。それだけの時間を苦とも思わない奴はやっぱり強かった。
ちょうど相手から突きつけられたちょいムズな問題への解答を考えているところだった。奥の方から聞こえていたヒールの音が自分のところで止まったことに気がついた。
「あの、それってプレオベインですよね。私もやっているんです」
話しかけられるか、黙って素通りされるのかの二択。僕はこういうときのランダムヒットにめっぽう弱い。
声の主のルート取りからして、ドリンクバー帰りといったところだろうか。
「あ、はい。そうです」
顔を上げると、背の高いショートヘアのお姉さんの姿があった。
「いきなり話しかけちゃってすみません。まだターンの途中でしたよね」
「大丈夫です。プレイ内容はあらかた決まっていて。あとは手順をミスらないように」
手札から切るカードの順番、盤面の処理の仕方、こちらから相手へ要求できるプレイの強さ。同じカードを使ったとしても手順によっては最大のパフォーマンスを発揮できないことがある。
「お上手なんですね」
「まぁ結構長いことやってるんで、これくらいは」
「なかなかにすごい状況だったのに全処理してしまうなんて!」
実は最適解ではなかったりする。話しかけられて無駄にしてしまった十数秒を取り返すために、制限時間内で終わらせられるプレイ内容を使った妥協択だった。
「まだ、席空きそうにない……感じですね」
彼女は席の方を見渡しながらつぶやいた。それから目をパチパチとさせて僕の方に顔を向ける。
「同じゲームをやっているよしみで、相席なんていかがでしょうか」
少し嫌だななんて思った。
脳の思いに反して、お腹が先手をとって返事をしてしまった。
「ふふ。OKって受け取ればいいですかね」
「はい……。お言葉に甘えさせてもらいます」
今のお腹の音はなかなかのプレイミス。僕は彼女の誘いを断るだけの手順も手札も持ち合わせてはいなかった。
「じゃあ、終わってからでいいので26番卓にきてくださいね」
彼女はそう言い終わると、右手にホットコーヒー、左手にメロンソーダを持ったまま一足先に席の方へと消えていった。
「あ」
僕は自分の手番が来ていたことに気が付かなかった。べべ↑ぼーん↓である。
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